3–5 YEARS · 業界の構造変化クリエイター中間層著作権の再発明
古い契約の地理が問われている
楽曲の権利回収は海外にも及ぶ、米控訴審判断が手続き上維持
作曲家が一度譲った権利を取り戻すとき、その範囲は米国内だけなのか。海外にも及ぶとした控訴審判断が、最高裁の審理に必要な人数を欠いたことで維持された。全米を拘束する実体判断ではない。それでも、長年の音楽出版契約と国境を越えた権利管理の関係を問い直す事例になっている。

最高裁が答えを出さずに残った判断
一度出版社へ譲った楽曲の権利を、作曲家が取り戻す。その範囲を米国内に限らず、世界に及ぶとした判断が残った。Music Business Worldwideによると、大手音楽会社傘下の出版社とBMGが求めた判断の見直しは、米最高裁で実体的な争点を審理されないまま終わった。
理由は、判事の人数だった。9人のうち4人が審理・決定に参加せず、必要な6人に届かなかった。残る5人は次の開廷期にも審理・判断できないと結論づけ、連邦法に従って下級審判断を維持した。不参加の理由は命令に記されていない。
ここで区別したいのは、判断が残ることと、その内容を最高裁が支持することの違いだ。今回の結果は、海外分まで回収できるという法解釈を全米の先例にしたわけではない。それでも、長く米国内だけの制度と扱われてきた移転終了権移転終了権いてんしゅうりょうけんCopyright termination right著作権の移転を一定の条件で終了させる米国法上の権利。本件では、期間の経過に加え、本人が権利を保有し移転したかどうかが判断の中心となった。用語集で詳しくに、国境を越える射程を認めた判断が生き続ける。
1ドルの譲渡契約から始まった争い
発端は、シリル・ヴェッターシリル・ヴェッター Cyril VetterSpotify で探すと故ドナルド・スミスドナルド・スミス Donald SmithSpotify で探すApple Musicが1962年に書いた「Double Shot (Of My Baby’s Love)」だ。2人は翌年、Windsong Music Publishersへ権利を譲渡した。控訴審によれば、対価は1ドルだった。
米国の著作権著作権ちょさくけんCopyright楽曲や歌詞などの創作的な表現を保護する権利。出典は楽曲・歌詞・録音の保護と声のブランドを守る試みを区別し、商標を追加の手段として位置づけている。用語集で詳しく法には、過去に譲渡した権利を一定期間後に取り戻す制度がある。記事は、1978年より前の作品では56年後、それ以降では35年後と説明する。作品の将来価値がまだ見えない時点で結んだ契約を、後から見直すための仕組みである。
ヴェッターは2019年に終了通知を出し、2022年5月3日に効力が生じた。一方、Windsongを取得した側は楽曲の25%の持ち分を主張。ヴェッターは2023年、世界全体で自分が単独の権利者であることの確認を求めて提訴した。2025年1月の地裁判断に続き、第5巡回区控訴裁判所も2026年1月12日にその結論を支持した。
同年3月には、Universal、Sony、Warnerの傘下出版社とBMGが、相手方の主張する持ち分を購入し、被告を引き継いだ。出版社側は、判断が「50年にわたる業界慣行」を揺るがすと主張した。対する作曲家側は、無名の作品を安く取得した出版社が、成功後の利益を抱え込んできたと訴えた。いずれも当事者の主張だが、争点が一曲の所有確認を超え、古い契約の価値配分にあることが分かる。
海外の権利と支払いは同時に動くとは限らない
兆しは、移転終了権移転終了権いてんしゅうりょうけんCopyright termination right著作権の移転を一定の条件で終了させる米国法上の権利。本件では、期間の経過に加え、本人が権利を保有し移転したかどうかが判断の中心となった。用語集で詳しくの対象として海外利用権海外利用権かいがいりようけんForeign exploitation rightsある国から見た国外で、作品を利用し、収益化することに関わる権利を指す表現。単一の権利名というより、地域をまたぐ契約上の権利範囲を捉えるために使われる。用語集で詳しくまで問われ始めたことにある。従来の業界の扱いでは、米国内の権利が作者へ戻っても、国外では出版社が管理を続けた。今回残った判断は、もともと世界全体を対象に譲った権利なら、戻る範囲もそれに対応するという考え方だ。
ただし、その効力には境界がある。記事によれば、この判断が拘束するのはルイジアナ、ミシシッピ、テキサスの連邦裁判所だ。米国内の別の裁判所が異なる結論に達する余地もある。さらに記事が紹介する法律家の見解では、国外の裁判所、権利管理団体権利管理団体けんりかんりだんたいCollective management organization多数の権利者に代わり、音楽などの利用に伴う使用料の徴収や分配を担う組織。扱う権利や地域は団体ごとに異なり、海外団体との協定が回収経路になる。用語集で詳しく、利用許諾を受ける事業者は、所有者や支払先を決める際に自国法を適用する可能性がある。
今後数年で焦点になり得るのは、米国で回収された権利を、各国のライセンスライセンスLicensing一定の条件のもとで利用を認めること。声や姿の複製では、誰が何に同意したのかが重要で、楽曲や録音を使う許可とは区別して考えられる。用語集で詳しく実務がどう扱うかである。判決上の所有者が変わっても、世界の支払先が同時に切り替わるとは限らない。別の訴訟や各地での対応を通じ、回収できる範囲と、実際に収益を受け取れる範囲のずれが確かめられていく可能性がある。
日本からは、契約と国境の重なりを見る
日本から読む際も、米国の法定制度による判断と、日本での権利関係は分けて捉える必要がある。この記事は、日本で同じ権利回収が認められることも、対象曲の国内の支払先が変わったことも示していない。海外の判決だけから、日本での扱いまで結論づけることはできない。
それでも読み取れる変化はある。楽曲の権利を誰が持つかという問いは、契約を結んだ時点だけでは完結せず、数十年後にも開き直され得る。そのとき、米国での回収と海外での管理がどこまでつながるのか。今回残ったのは世界共通の答えではなく、その接続を具体的に争える判断である。
EVIDENCE出典
- 二次Music Business WorldwideMon, 19 Oc
“Because the Supreme Court did not rule on the merits, however, the outcome does not set a nationwide precedent, and courts elsewhere in the US could still reach a different conclusion in a future case.”
ただし最高裁は実体的な争点について判断していないため、この結果は全米に適用される先例とはならず、米国内の他の裁判所は今後の事件で異なる結論に達する可能性がある。
確認日 2026-10-21
Artistsこの記事に登場するアーティスト
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