3–5 YEARS · 業界の構造変化著作権の再発明

上映のたびに生まれる音楽の対価

英国の映画館音楽使用料が増額へ、観客単位の定額制に統一

英国の著作権審判所が、映画館の音楽使用料引き上げを認めた。映画で使われる音楽の増加を料金に反映すると同時に、徴収方法は観客一人あたりの定額制へ統一される。音楽の貢献をどう測り、その対価を誰がどう負担するのか。作詞・作曲家への還元と、低料金の映画館の負担が交差する制度改定である。

クリーム色の背景に、青い映画スクリーンと赤い音符を配置し、観客を示す小さな円を下部に並べた抽象イラスト

映画の中の音楽を、上映の対価に戻す

映画に音楽を使うときの支払いは、制作時だけでは終わらない。英国では、完成した映画を上映するたびに、その中の楽曲を公に演奏する行為が生じる。今回見直されるのは、この上映に伴って映画館が支払う音楽使用料音楽使用料おんがくしようりょうMusic royalties音楽の利用に伴い、権利を持つ側へ支払われる対価。会場が利用許諾のために払うお金と、個々の作り手に分配される金額は、分けて捉える必要がある。用語集で詳しくだ。

CMUによると、英国の著作権著作権ちょさくけんCopyright楽曲や歌詞などの創作的な表現を保護する権利。出典は楽曲・歌詞・録音の保護と声のブランドを守る試みを区別し、商標を追加の手段として位置づけている。用語集で詳しく審判所は、演奏権管理団体演奏権管理団体えんそうけんかんりだんたいPerformance Rights Organization楽曲の演奏や放送などに関わる権利を管理し、利用者から使用料を徴収して権利者へ分配する団体。PROと略され、扱う権利や利用の範囲は制度や団体によって異なる。用語集で詳しくPRSと英国映画館協会の争いで、使用料率の引き上げを認めた。審判所が受け入れたのは、映画、ひいては映画館で使われる音楽が2005年より増えているという点である。PRSは、従来の料率は20年以上前に交渉されたもので、現在の映画館業界の実情に合わなくなっていたと説明している。

ここで見える兆しは、映画の体験を支える音楽の利用実態を、上映段階の対価へ反映し直す動きだ。ただし、「音楽の価値が高まった」という評価はPRS側の表現である。記事には新旧の具体的な料率も、音楽利用の増加量も示されていない。増額の判断と、その大きさは分けて読む必要がある。

二つの許諾と、7.33ポンドの境界

仕組みを理解する鍵は、映画への収録と上映が別の利用であることだ。楽曲を映像に組み込む際には、複製を伴うシンクシンクSync映画や広告などの映像に音楽を合わせて使用すること。楽曲が物語や場面と結びつき、発売時とは異なる観客へ届く接点になり得る。使用には関係する権利の確認が伴う。用語集で詳しくの許諾が必要になる。英国では通常、音楽出版社音楽出版おんがくしゅっぱんMusic publishing歌詞やメロディーなど楽曲の著作権を管理し、利用の許諾や収益につなげる事業。特定の録音物を扱う権利とは区別され、契約によって管理や保有の範囲が異なる。用語集で詳しくが映画の製作者と条件を交渉する。一方、上映時に生じる楽曲の演奏権は通常PRSが管理し、映画館は別途許諾を受ける。制作時の使用料と、上映に応じた使用料が作詞・作曲家や出版社へ届く構造である。

今回の改定では、徴収方式も変わる。従来、映画館は観客一人あたりの定額か、チケット収入に対する一定割合かを選べた。今後は観客一人あたりの定額に統一される。PRSの映画館向け許諾は、映画の中の楽曲だけでなく、上映の合間の音楽や、館内で行うDJ・ライブ音楽の催しも対象に含む。

英国映画館協会は、低料金の映画館、とりわけ小規模な独立系映画館への影響を問題にした。同協会の説明では、チケット価格が7.33ポンドを超える場合には定額方式が機能するが、それ未満では支払総額が増えるという。この数字は新しい使用料そのものではなく、協会が負担の違いを説明するために示した価格の境界だ。

PRSは、入場者数の少ない映画館に対する割引を維持し、使用料を最大25%減らせると説明する。ただ、協会側は、その割引が低いチケット価格に伴う問題を必ずしも解消しないと主張していた。観客数の少なさを支える制度と、低価格を維持する映画館を支える制度は、同じではない。

増額の先にある、更新の仕組み

広い範囲の楽曲をまとめて許諾する仕組みには、競争法競争法きょうそうほうCompetition law事業者の行為や市場の構造が、公正な競争を妨げていないかを扱う法分野。この記事では、歌手への違約金請求が他社への移籍も阻むという申立ての枠組み。用語集で詳しく上の懸念が伴う。英国では、その調整を担うのが著作権著作権ちょさくけんCopyright楽曲や歌詞などの創作的な表現を保護する権利。出典は楽曲・歌詞・録音の保護と声のブランドを守る試みを区別し、商標を追加の手段として位置づけている。用語集で詳しく審判所だ。利用者側の企業や団体などは、料金や条件を争うことができる。今回は英国映画館協会が手続きを起こした。音楽の貢献を認めることと、提示された条件をそのまま受け入れることは、別の問題なのである。

記事の時点では、新しい料金表の確定は残されている。PRSは協会と協議し、追加の審理で承認を得てから新条件を実施するとしている。増額後の料率は2024年7月以降の対象利用に遡って適用され、その後は毎年初めに物価上昇に合わせて引き上げられる予定だ。

今後3〜5年を見るうえで注目されるのは、今回限りの増額だけではない。物価に連動する更新が続けば、音楽の対価は長期間据え置かれる料金から、継続的に調整される費用へ近づく可能性がある。その一方、定額方式が低価格の映画館に与える影響や、割引がどこまで負担を和らげるかは、実施後に確かめられる論点として残る。

日本から見る、制作費とは別の価値

日本から読む際は、英国の権利管理の分担と料金方式を、そのまま国内の制度に重ねることはできない。今回の記事が説明するのは、映画への収録と映画館での上映を分け、後者の楽曲利用をPRSが管理する英国の仕組みである。日本との具体的な料率や負担の差は、この出典だけでは比較できない。

それでも、作品に組み込まれた音楽の価値を、制作時の費用だけで捉えない視点は読み取れる。上映を重ねることで生まれる対価と、地域の映画館が鑑賞機会を保つための条件。その両方が、同じ料金表の中で調整されている。音楽の貢献を認めた先に、誰にどの負担が生じるのかまで見渡す制度設計が問われている。

EVIDENCE出典

  1. 二次CMU(Complete Music Update)Tue, 13 Oc

    UK Copyright Tribunal ruling recognises “increased value of music in cinema” says PRScompletemusicupdate.com ↗

    “Previously cinemas could either pay a set rate per audience member or a percentage of ticket income. Moving forward it will always be a set rate per audience member.”

    従来、映画館は観客一人あたりの定額か、チケット収入の一定割合かを選んで支払うことができた。今後は常に観客一人あたりの定額となる。

    確認日 2026-10-19