手数料まで含めて引かれる境界
カリフォルニア州で転売上乗せ10%案、米州法の見直し
2026年2月上旬、カリフォルニア州でチケット転売時の上乗せを購入額の10%以内に抑える法案が提案された。一方、ニューヨーク州では、購入時の総額を超える転売の禁止と手数料の上限を求める運動が進む。見え始めていたのは、ファン同士の譲渡を残しながら、転売利益に境界を引こうとする動きだ。

譲れる余地を残し、利益に上限を置く
チケットを売り直す行為そのものではなく、そこから得られる利益に線を引く。2026年2月上旬、カリフォルニア州で提案された法案には、そんな設計が見える。州下院議員マット・ヘイニーが「Fans First Act」と呼ぶ案は、転売価格の上乗せを、売り手が購入時に支払った額の10%以内に制限するものだ。成立した法律ではなく、提案段階にある。
法案の説明は、予定が変わって公演に行けなくなった人が、別のファンへチケットを売る余地を明示している。一定の値上げを認めつつ、大規模な利益目的の転売を抑える。ここでの転売価格上限転売価格上限てんばいかかくじょうげんResale price cap購入済みのチケットを再販売する際の価格に設ける上限。額面に対する上乗せ率などで定められ、最初の販売価格そのものを抑える制度とは異なる。用語集で詳しくは、二次流通セカンダリーマーケットSecondary market一度販売・所有された品物が再び売買される二次流通市場。美術品や宝飾品では競売も取引経路となり、新品市場とは供給や価格の条件が異なる。用語集で詳しくを一律になくす仕組みではない。通常の買い手による売り直しと、買い占めによる収益化を、価格のルールで分けようとする試みである。
同じ時期、ニューヨーク州では別の境界線が求められていた。独立系会場独立系会場どくりつけいかいじょうIndependent venue大手興行企業などから独立した運営主体を持つライブ会場を指す呼称。小規模会場と重なる場合もあるが、独立性と収容人数の大小は別の尺度である。用語集で詳しくの業界団体NIVAが主導する「Fix The Tix」は、購入時の総額を超える転売を禁じ、さらに転売手数料にも上限を設けるよう州議会に要請している。二つの州で共通するのは、譲渡の経路を残しながら、そこからどこまで利益を得てよいかを問い直す姿勢だ。
10%と5%は、別の価格を縛る数字
米国のチケット規制は主に州単位で行われ、地域によって仕組みが異なる。転売を規制・制限する州がある一方、転売する権利を保護し、主催者が独自の制限を設けることを妨げる州もあるとCMUは伝える。全国一律の条件ではないことが、州議会を価格ルールの交渉の場にしている。
ニューヨーク州で見直しが焦点となるのは、既存のチケット規制が2026年7月に失効する予定だからだ。定期的に制度を点検するための期限が、規制を強める提案の機会にもなる。Fix The Tixは、価格の透明性と、手数料を含む総額を示すオールイン・プライシングオールイン・プライシングAll-in pricingチケット本体の価格だけでなく、購入に伴う手数料を含めた総額を示す方式。表示の透明性に関する仕組みであり、価格や手数料の水準そのものを制限する制度とは異なる。用語集で詳しくの既存ルールを維持したうえで、転売への規制を追加するよう求めている。
数字の対象には注意が要る。カリフォルニア州案の10%は、購入額に対して認める上乗せ幅だ。対してFix The Tixの要求は、元の購入総額を超える価格での転売を禁止し、すべての転売手数料を元のチケット価格の5%以内に抑えるというもの。10%と5%は、同じ費目の上限を比べた数字ではない。
この違いは小さくない。チケット本体の転売価格だけを抑えても、別に徴収する手数料をどう扱うかが残る。ニューヨーク州への要求は、売り手の価格と取引に付随する料金を分けて捉えている。何を基準額とし、どの料金まで規制に含めるか。制度の効き方を左右する細部が、議論の前面に出てきた。
州をまたぐのは、同じ法律より設計の考え方
この時点から先の1〜3年を見るうえで注目できるのは、単一の上限率が全米へ広がるかどうかだけではない。ファン同士の再販売を認め、利益と手数料を制限するという設計が、別の地域でも参照される可能性である。カリフォルニア州案の説明は英国にも言及し、英国政府が利益目的の転売を原則禁じる法律の導入を約束したことを挙げている。
ただし、英国で額面再販売時に認める事務手数料の上限は、この時点では未定だ。カリフォルニア州は法案、ニューヨーク州は運動側の要求であり、段階も異なる。複数地域で似た論点が浮上したことは確認できるが、同じ制度へ収束するとはまだいえない。
また、これは業界全体が合意した改革でもない。Fix The Tixは、転売業者を代表すると同団体がみなす組織や、Live Nation傘下のTicketmasterによる対案を批判している。これは運動側の評価である。価格の透明性を求めるだけでなく、転売市場で誰の収益をどこまで認めるかをめぐり、利害がぶつかっている構図が読み取れる。
日本からは、数字の分母を見る
日本から読む際、この出典だけで国内制度との厳密な比較はできない。まず押さえたいのは、米国では州ごとに転売への法的な扱いが異なり、今回の動きも全国一律の変更ではないという点だ。「米国で転売規制」という括りでは、提案の範囲も、残される売り直しの条件も見えにくくなる。
そのうえで読み取れるのは、転売を認めるか禁じるかの二択から、購入総額、上乗せ分、手数料を別々に扱う議論への広がりである。ファンが行けなくなった際の出口と、利益目的の取引への制約。その両方を同じ仕組みに収めるため、価格の内訳そのものが政策の対象になりつつあった。
この記事は、2026年10月に、当時(2026年2月6日(金))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。
EVIDENCE出典
- 二次CMU(Complete Music Update)2026-02-07
“In the US, most regulation of ticketing happens at a state-level, meaning rules differ around the country.”
米国では、チケットに関する規制の大半が州単位で行われており、国内でも地域によってルールが異なる。
確認日 2026-10-18


