一枚のチケットの外側にある参加
女性ファンの支出と同行調整を可視化したライブ音楽調査
ライブ音楽を支える女性の役割は、チケットを買うことだけではない。12カ国の約1万5,000人への聞き取りを基にした調査は、追加支出に加え、公演に誘い、同行者をまとめる働きにも目を向けた。2026年6月に見えていたのは、動員の人数だけでなく、参加が生まれる過程から市場を捉え直す兆しである。

来場者の背後に、来場をつくる人がいる
2026年6月18日、Music Allyが紹介した報告書『Her Frequency』は、女性とライブ音楽の関係を、客席にいる人数だけでは捉えていない。誰が公演に行こうと持ちかけ、誰が同行者をまとめるのか。チケットの購入に至るまでの働きも、音楽への参加として扱っている。
報告書によれば、女性の35%が自分を来場のきっかけをつくる人と捉え、30%が公演に行くグループの調整役を担うと答えた。個人の好みが、周囲の人の予定や行動へつながる。その接点に目を向けた数字である。ただし、両者が別々の回答者なのかは紹介記事から分からず、単純に足すことはできない。
ここにある兆しは、女性を新たな販売対象として見つけた、という話だけではない。すでにライブを支えている行動のうち、購入という結果の陰に隠れやすい役割を可視化する動きだ。ファンダムファンダムFandom特定のアーティストや作品への関心を共有する人々と、その間に生まれる文化や活動。購入だけでなく、交流、制作、情報交換などの参加も含む。用語集で詳しくを、好きという気持ちだけでなく、人を誘い、参加を成立させる働きまで含めて捉えている。
チケットの外側に広がる支出
調査を手がけたのは、調査会社The CollectiveコレクティブCollective共通の関心や活動方針のもとで、DJや制作者、企画者などが協働する集団。法人や固定メンバーの団体とは限らず、選曲や催しの運営を共同で担う場合もある。用語集で詳しくと、旧称Wasserman Groupのタレント・エージェンシータレント・エージェンシーTalent agency音楽家や俳優、スポーツ選手らを代理し、仕事の機会や契約交渉などを扱う会社。業務や権限の範囲は、分野や地域、個々の契約によって異なる。用語集で詳しく、The·Teamである。12カ国の約1万5,000人への聞き取りを基に、定量・定性調査にソーシャル領域と業界の分析を組み合わせた。来場までの過程で女性がどう行動し、関わり、支出するかを広く見る設計だ。
報告書は、世界の女性の64%がライブ音楽のファンだとする。さらに、女性の54%がライブイベントのチケット代以外に100ドル超を支出し、29%は200ドル超、11%は500ドル超を支出すると報告している。これらは金額のしきい値ごとの数字であり、互いに独立した層として合算するものではない。
もっとも、Music Allyの記事だけでは、この支出がどの期間を対象とするのか、何を含むのか、各設問の回答母数は確認できない。国別の違いや調査対象者の構成も示されていない。数字は女性の参加に伴う経済活動の存在を示す一方、そのまま世界全体の市場規模を算出する材料にはならない。
報告書が支出と調整役を並べるのは、ファンであることを、より頻繁な来場や継続的な参加へ結びつける機会を探るためだ。追加支出の大きさだけでなく、参加したい気持ちと実際に参加できる条件の両方を見る。紹介記事から読み取れるのは、成長の手がかりを購入前後の行動に求める視点である。
「女性向け」から、参加の違いを見る設計へ
報告書は女性ファンを、Power、High-Intent、Mainstream、Social、Occasionalの五つに分けている。ただし、紹介記事には各層の詳しい定義や規模はない。この分類から確かに言えるのは、女性ファンを一枚岩として扱わず、関わり方の違いに応じてファンとの関係づくりファンとの関係づくりふぁんとのかんけいづくりFan Engagementアーティストとファンの間に、継続的な接点や参加の機会をつくる取り組み。販売や公演など複数の活動を含み、単なる認知や一度の購入とは区別される。用語集で詳しくを考えようとしていることだ。
報告書の提案は、来場したくなる感情的な理由と、来場できるかを左右する実際的な事情の両方を考慮する、というものだ。これは調査側の提案であり、効果が実証された施策の報告ではない。何を変えれば来場頻度が上がるのか、その具体的な答えまでが記事で示されているわけではない。
今後1〜3年の広がりとして考えられるのは、こうした視点が、公演を評価する際の問いに加わる可能性である。何人が買ったかに加え、誰が誘い、誰が取りまとめ、再び参加するまでに何が関わるのか。複数国を対象とした調査は、その問いを市場横断で共有する材料になり得る。ただし、各地域で同じ行動が見られるかは別途確かめる余地がある。
日本からは、数字より先に問いが届く
日本から読む際、まず区別したいのは、この調査が描く国際的な像と、日本の観客の実態である。紹介記事には対象となった12カ国の一覧も、日本だけの集計もない。支出額や調整役の割合を、日本のライブ市場へそのまま当てはめることはできない。市場間の違いそのものも、この資料だけでは判断できない。
それでも、比較のための問いは受け取れる。観客を一人ずつ数えることと、その一人が周囲の参加をどう支えているかを見ることは、異なる作業だ。『Her Frequency』が照らしたのは、女性の購買力だけではなく、来場を社会的な行動として成立させる役割である。ライブの価値を測る視線が、チケットの売買から、その前後にある関係へ伸びている。
この記事は、2026年10月に、当時(2026年6月18日(木))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。
EVIDENCE出典
- 二次Music Ally2026-06-18
'Her Frequency’ report studies women’s value for live musicmusically.com ↗
“Women do not just consume live music. They organize it, share it, spend on it, travel for it, and give it cultural meaning.”
女性はライブ音楽を消費するだけではない。それを組織し、共有し、お金を使い、そのために旅をし、文化的な意味を与えている。
確認日 2026-10-18


