NOW — 数ヶ月〜1年先 · 兆しの初動ライブ・ブーム

音楽だけでは測れない会場の収益

スフィア初の年間黒字、映画上映が支えるライブ会場

ラスベガスのスフィアを運営するSphere Entertainmentが、会場開業以来初の年間黒字を報告した。収益を押し上げたのは音楽公演だけではない。2026年2月14日時点の報道から見えるのは、専用の映像作品を繰り返し上映し、会場の収益を支える仕組みと、その海外展開への構想である。

クリーム色の背景に、青い球形の会場と、そこへ流れ込む赤いフィルムを配した抽象イラスト。足元には小さな入場券が並ぶ。

ライブ会場を支えた、一本の映画

巨大なライブ会場の成長を、映画が支えている。2026年2月14日付のBillboardによると、ラスベガスのスフィアで上映される『The Wizard of Oz at Sphere』のチケット販売額が、前年8月末からの累計で2億9000万ドルを超えた。販売枚数は220万枚超。1939年の映画『オズの魔法使』を、会場固有の映像設備とサウンドシステムサウンドシステムSound systemクラブなどで音を届けるための機器とその構成。スピーカーだけでなく、増幅や音の調整を担う機器、配置も含み、会場での聴こえ方を左右する。用語集で詳しくに合わせて再制作・拡張した作品だ。

運営会社のSphere Entertainmentは、2025年に3340万ドルの利益を計上した。2023年のラスベガス会場開業以来、初の年間黒字である。売上高は前年比8%増の12億ドル。音楽アーティストが同じ会場で継続的に出演するレジデンシー公演レジデンシー公演Residency showアーティストが一つの会場を拠点に、一定期間、複数回にわたって行う公演。各地を移動するツアーとは異なり、会場固有の設備を前提に演出を組み立てられる。用語集で詳しくと、映画のチケット販売が増収を後押しした。

ここで見える兆しは、ライブの人気だけではない。出演者の実演とは別に、会場そのものを体験する映像作品が大きな販売額を生んでいることだ。専用設備は公演の舞台であると同時に、繰り返し上映できる作品の受け皿にもなっている。

増収の中心にある、繰り返せる上映

『The Wizard of Oz at Sphere』は2025年8月28日に公開され、同年中に約880回上映された。既存の『Postcard from Earth』と『V-U2 An Immersive Concert Film』も含む映像作品群は、年間で約1億400万ドルの増収に寄与した。記事によれば、これは会社全体の増収額のおよそ3分の2に当たる。

特定の会場に合わせて視覚と音を設計する没入型映像没入型映像ぼつにゅうがたえいぞうImmersive film大きな画面や周囲に広がる映像、音響などを使い、作品の空間に包まれるような感覚をつくる映像表現。統一された技術規格ではなく、上映設備によって体験が異なる。用語集で詳しくは、その場所へ足を運ぶ理由になる。この決算で確認できるのは、そうした作品が単なる音楽公演の付加要素ではなく、独立した集客商品になっていることだ。ただし、記事には作品別の制作費や利益率が示されていない。販売額の大きさだけで、映画単体の採算まで判断することはできない。

会社全体の黒字と、営業段階の収支も分けて読む必要がある。2025年の営業損失は、前年から38%改善したものの2億2960万ドルだった。一方、調整後営業利益は138%増の2億6180万ドル。黒字化は事実だが、異なる利益指標を一つにまとめて、会場事業の採算が確立したとまでは言えない。

すべての収入源が伸びたわけでもない。協賛、看板、スイートの利用許諾料、外壁の巨大画面への広告などによる収入は、前年より940万ドル減った。傘下のMSG Networksも加入者減少で減収となった。映像チケットの伸びは、こうした弱さを伴う決算の中で際立っている。

次に試されるのは、別の都市での再現

会社はラスベガスの実績を、世界各地へ会場を展開するためのひな型と位置づけている。2026年1月に発表した米国内2拠点目の計画は、ワシントンD.C.近郊、メリーランド州のナショナルハーバー。2030年までの開業を掲げる。ラスベガスの2万席に対し、新会場は6000席という規模だ。

建設費は約10億ドルを見込み、州と地元の公的資金約2億ドルで費用を補う想定である。同地を商用や会議などで訪れる年間約1500万人の観光客から、来場者を取り込む考えだ。アブダビでも、開発パートナーが計画地の確定に近づいていると報告された。

この先数年で問われるのは、ラスベガスで成立した需要を、規模も訪問目的も異なる都市で再現できるかである。映像作品を複数拠点で展開できれば、制作物の利用機会が広がる可能性はある。ただし、記事は作品の共通利用や各地の上映計画までは示していない。建設費、公的支援、地域ごとの集客を含む検証は、まだこれからだ。

日本から見ると、比較の単位が変わる

日本からこの動きを読む際、まず区別したいのは、一般的なコンサート会場と、専用作品を上映するスフィアの構造である。音楽公演の動員やチケット価格だけを比べても、今回の増収の中心は捉えにくい。上映回数と作品の販売力を含めて見ることで、会場の収益を支えたものが浮かぶ。

同時に、この決算だけで日本でも同じ仕組みが成立するとは言えない。専用映像への需要に加え、新会場計画には観光客の集積や公的資金も織り込まれている。2026年2月時点で見えたのは、ライブ会場の成長を実演の回数だけで測らない動き。音楽と映像を同じ場所で事業として成立させる試みが、具体的な販売額を伴い始めている。

この記事は、2026年10月に、当時(2026年2月14日(土))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。

EVIDENCE出典

  1. 二次Billboard(Business)2026-02-14

    Sphere Earnings 2025: 'Wizard of Oz' Boosts Revenue, Profitbillboard.com ↗

    “More than 2.2 million tickets have been sold to the Sphere’s version of the 1939 classic Judy Garland film, which has been remastered and enhanced for Sphere’s one-of-a-kind visual and sound system.”

    ジュディ・ガーランド主演の1939年の名作を、スフィア独自の映像・音響システム向けにリマスターし拡張した同会場版は、220万枚を超えるチケットを販売した。

    確認日 2026-10-18