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国境の負担は、舞台の外にも届く
英音楽家の欧州公演が21%減、送り手と受け手に損失
英国政府が委託した調査によると、英国アーティストの欧州公演数は2024年、2019年比で21%減少した。離脱後の巡業制約による経済的な損失は、英国だけでなく受け入れ側のEUにも及ぶと推計されている。見えてきたのは、公演の減少がスタッフの仕事と若手の成長機会にまで連なる構図だ。

公演の減少は、国境の両側に残る
英国のアーティストが欧州で演奏する機会が減っている。英国政府が委託した調査によると、2024年の公演数は、EU離脱前の2019年を21%下回った。Digital Music Newsが伝えたこの数字は、海外公演の減少を、出演者だけの問題としては扱っていない。
調査が捉えたのは、送り出す英国と、迎え入れるEUの双方に生じる損失だ。英国の舞台芸術分野では、2022〜2024年に総付加価値総付加価値そうふかかちGross Value Added生産した財やサービスの価値から、仕入れなど中間投入の価値を差し引いた経済指標。売上や利益そのものとは異なり、産業や地域が新たに生み出した価値を捉える。用語集で詳しくで2億800万ポンド、雇用で約2,490人分の損失があったと推計する。総付加価値総付加価値そうふかかちGross Value Added生産した財やサービスの価値から、仕入れなど中間投入の価値を差し引いた経済指標。売上や利益そのものとは異なり、産業や地域が新たに生み出した価値を捉える。用語集で詳しくとは、売上そのものではなく、経済活動によって新たに生まれた価値を示す指標である。
受け入れ側のEU諸国についても、英国の音楽家による巡業の減少に伴い、総付加価値総付加価値そうふかかちGross Value Added生産した財やサービスの価値から、仕入れなど中間投入の価値を差し引いた経済指標。売上や利益そのものとは異なり、産業や地域が新たに生み出した価値を捉える。用語集で詳しくで約10億4,000万ポンドの損失が生じたとする。英国の輸出機会が縮んだだけではない。公演を受け入れる地域にも、その不在が経済的な空白を残すという見取り図だ。
負担が偏る、小中規模の巡業
なぜ公演が減ったのか。記事は、英国が2020年にEUを離脱した後の巡業制約を主要な問題として挙げる。一方、比較対象となる2019年から2024年の間には、新型コロナウイルスの流行もあった。記事自身も、それが世界的な経済の不確実性を強めたと認めている。21%という減少率のすべてを、離脱だけの効果と読むことはできない。
それでも、調査が示す負担の偏りには注目できる。影響を不均衡に受けたとされるのは、小中規模のアーティストや事業者、フリーランス、巡業スタッフ、運送事業者だ。舞台に立つ人の移動は、機材を運ぶ人、現場を成立させる人の仕事とつながっている。公演数の減少は、その連鎖を細らせる。
若手にとっては、目の前の出演機会だけが失われるわけではない。調査は、観客を増やし、仕事上のつながりを築き、活動を継続的に発展させる機会の縮小を指摘する。海外公演は収入の場であると同時に、次の仕事につながるキャリア開発支援キャリア開発支援キャリアかいはつしえんCareer development support作家が活動を継続し発展させるための学習や交流などの支援。資金助成と組み合わせる場合もあり、今回の制度ではワークショップなどが含まれている。用語集で詳しくの機能も持つ。その入口が狭くなることが、将来の成長や海外市場の開拓にも影響し得るという。
巡業を「共通の価値」として語る動き
この調査に反応したのが、英国とEUの創造産業の団体を結ぶCultural Exchange Coalitionである。同連合は、英国のアーティストや事業者によるEU巡業が、双方に経済的・文化的な価値をもたらすことを報告書が示した、と受け止めた。次回の英EU首脳会議で実務的な解決策を確保するよう求めている。
ここにある兆しは、支援の論拠の置き方だ。英国の音楽家を助けるという話だけでなく、公演を迎える側も利益を得る、共通の活動基盤として巡業を語っている。調査では、EU側で影響が大きい国としてドイツ、デンマーク、フランス、イタリア、オランダ、アイルランドが挙がる。国境を越える公演の価値は、出発地だけでは測れない。
今後1〜3年を考えると、この双方の損失という枠組みが、制度をめぐる協議の論点になる可能性がある。ただし、記事が伝えるのは解決を求める声明であり、合意や制約緩和の実現ではない。ツアー・ルーティングツアー・ルーティングTour routingツアーで訪れる地域、会場、日程や移動経路を組み立てること。記事では、配信の人気だけでなく、販売実績や価格、演出費用を踏まえた会場選びとして語られる。用語集で詳しく、つまり公演地と移動経路の組み立てが、現場の工夫だけでどこまで維持できるのか。小規模な巡業を続けられる条件が問われている。
日本から見る、巡業の持続可能性
日本から読む際には、この数字がEU離脱という固有の制度変更を背景にしている点を分けておきたい。記事には日本との比較データはなく、英国の減少率や損失額を、そのまま日本の海外公演に当てはめることはできない。一方、公演の持続可能性を出演者の採算だけで測らない視点は読み取れる。
今回の記事が中心に据えるのは、環境負荷の削減ではなく、制度上の制約の下で巡業を続けられるかという問題だ。観客との出会い、スタッフの雇用、受け入れ地域の経済、若手の次の機会。それらを一緒に捉えることで、一本の海外公演が持つ意味が見えてくる。舞台の数だけでは表れない価値を、経済推計と言葉で可視化する動きである。
この記事は、2026年10月に、当時(2026年8月30日(日))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。
EVIDENCE出典
- 二次Digital Music News2026-08-31
Just How Bad Was Brexit for the UK Touring Industry?digitalmusicnews.com ↗
“Commissioned by the UK government, the report reveals that the total number of performances by British artists in Europe in 2024 was 21% lower than pre-Brexit levels in 2019.”
英国政府が委託したこの報告書によると、2024年に英国アーティストが欧州で行った公演の総数は、EU離脱前の2019年の水準を21%下回った。
確認日 2026-10-18


