1–3 YEARS · シーンと言説の潮流サステナブル・ツアーフェス再設計

会場の外まで続く環境負荷の設計

フェスの排出削減、観客の移動と食事から組み直す運営

フェスの環境負荷を左右するのは、会場内の設備だけではない。Resident Advisorが紹介した米英の調査では、観客の移動がライブ音楽の排出量の最大要因となり、飲食が続いた。2026年5月時点の欧州の実践から、交通の接続、食の価格、来場者の好みを一緒に扱う運営の兆しを読む。

クリーム色の背景に、円形の会場へつながる青い交通路と、植物の葉を添えた食器を並べた抽象的な平面イラスト

フェスの境界は、入場口の外にある

フェスの排出削減が、会場内の運営だけでは捉えきれなくなっている。2026年5月2日付のResident Advisorは、観客がどう来場し、何を食べるかに焦点を当てた。注目したいのは、環境対策を独立した取り組みにせず、交通の便利さや食事の価格と結びつける動きだ。

バルセロナのBrunch Electronikは、大勢の来場者を運べるよう地元の地下鉄と連携する。ブリュッセルのXRDSは、ゲントやアントワープなど近隣都市からバスで集団移動できるようにしている。観客移動観客移動かんきゃくいどうAudience travel観客が公演やフェスの会場へ向かい、帰るまでの移動。環境負荷の分析では、会場内の電力などとは別に、交通手段や移動距離に伴う排出を捉える。用語集で詳しくを個人の選択だけに任せず、主催者が交通機関との接続を組み立てる。フェスの運営範囲が、入口の外へ伸びている。

食事でも同じ変化がある。英国のJunction 2は前年に肉をメニューから全面的に外した。一方、Brunch Electronikは、動物性食品を好む観客が多く、菜食だけでは需要が落ちると説明する。環境負荷を下げる方向は共有されても、その方法は一様ではない。来場者との関係を含めた設計が試されている。

排出量の大きな部分は、移動と飲食

背景にあるのは、負荷の所在を示す数字だ。RAが紹介したMITの報告によると、2023年時点でライブ音楽産業は英国の総排出量の約1%、米国では0.2%を占めた。米英の8万件超のイベントを分析した結果、観客移動観客移動かんきゃくいどうAudience travel観客が公演やフェスの会場へ向かい、帰るまでの移動。環境負荷の分析では、会場内の電力などとは別に、交通手段や移動距離に伴う排出を捉える。用語集で詳しくは英国で77%、米国で62%。これはフェスだけを切り出した数字ではなく、ライブ音楽を対象とする集計である。

飲食は次に大きく、米国で16.9%、英国で7.6%だった。報告は動物性食品を主な要因とし、プラントベースメニュープラントベースメニューPlant-based menu植物由来の食材を中心に構成する食事メニュー。イベントでは飲食由来の排出削減策として扱われるが、対象食材や動物性食品を除く範囲の確認が必要になる。用語集で詳しくへの移行によって、この飲食由来の排出量を40%以上減らせる可能性を示す。イベント全体の排出量がその割合だけ減る、という意味ではない。どこを変えれば効果が見込めるか、その優先順位を考える数字だ。

ただし、移動も食事も、主催者だけで完結しない。交通手段の把握には来場者のデータが必要で、便数や運行区間の調整には交通事業者が関わる。公共交通へのアクセスが限られる会場では、主要な交通拠点と会場を結ぶ専用バスが選択肢になる。ルーマニアのElectric Castleは、満員の車で来た観客に無料駐車や賞品を用意し、相乗りを促している。

環境対策を、便利さと価格につなぐ

XRDSがバス移動の理由として挙げるのは、排出削減だけではない。利便性に加え、飲酒後の運転を心配せずに済む安全性である。同フェスは3年間、菜食の提供を続け、地元産の食材を優先する出店者を探してきた。野菜は一般に肉より費用を抑えやすく、観客にとって適正な食事価格を維持する助けになるとも説明する。

さらにXRDSは、出店者が来場者に極端な高値を付けず、健全な利益を確保できる取引条件にも言及している。ここに見えるのは、環境配慮を追加負担として切り離さない運営だ。ただし、Brunch Electronikが示す需要の壁もある。植物由来の選択肢を充実させても、観客がそのまま食習慣を変えるとは限らない。価格と好みの両方が、実装の条件になる。

この時点から先の1〜3年に広がり得るのは、単一の「環境に良いフェス」の型というより、地域ごとに組み合わせを探る方法だろう。都市間バス、地下鉄との連携、相乗りの特典、食事の構成。それぞれの効果を比べるには、交通手段や排出量の測定、データ共有が土台になる。RAはサステナブル・ツアーサステナブル・ツアーSustainable touring移動や公演運営の環境負荷と、費用・時間・働き方などの継続条件を合わせて考えるツアーのあり方。鉄道利用はその一つの方法であり、それだけで持続可能性が決まるわけではない。用語集で詳しくへの取り組みも業界全体の手段に挙げるが、今回の数字が特に照らすのは、観客側の移動と消費である。

日本から見ると、会場の立地が論点になる

日本から読む際、米英の排出比率をそのまま当てはめることはできない。出典には日本の比較データがなく、紹介された欧州の事例でも、地下鉄と連携する会場と、専用バスが必要な会場では条件が違う。日本との違いを確定する前に、まず会場ごとの交通条件が結果を左右する、という読み方ができる。

また、今回の事例から、規模を小さくすれば自動的に排出が減るとも言えない。読み取れるのは、フェスの再設計が出演者や会場内の体験だけでなく、行き帰りと一食の提供まで含み始めていることだ。環境負荷、移動の安全、食事の価格。別々に見えた課題を同じ運営の中で扱う試みが、2026年5月の時点ですでに存在していた。

この記事は、2026年10月に、当時(2026年5月2日(土))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。

EVIDENCE出典

  1. 二次Resident Advisor2026-05-02

    RA Pro Newsletter: Reducing festival emissions · News ⟋ RAra.co ↗

    “Analysing data from over 80,000 events across the US and the UK, the report found fan travel was the largest driver of live music emissions, accounting for 77 percent in the UK and 62 percent in the US.”

    米英の8万件超のイベントのデータを分析した同報告は、観客の移動がライブ音楽の排出量の最大要因であり、英国では77%、米国では62%を占めるとした。

    確認日 2026-10-18