1–3 YEARS · シーンと言説の潮流音楽の金融化

配信の成長と株式評価の隔たり

中東の音楽配信Anghami、親会社から非公開化提案

中東・北アフリカで音楽と映像を配信するAnghamiが、支配株主から非公開化の予備提案を受けた。提示額は直近の株価に上乗せするものではなく、売買の少ない市場価格の信頼性そのものが問われている。2026年6月末に見えていたのは、増収を続ける地域配信サービスと、その成長を支える資本の置き場所のずれである。

クリーム色の背景に、音楽配信を表す円盤と映像を表す長方形が、コバルトブルーの一つの枠に収まる抽象イラスト。

買い手は、すでに会社を握っている

音楽配信の成長と、上場企業としての評価は同じ速度では進まない。中東・北アフリカで音楽と映像を配信するAnghamiは2026年6月30日、支配株主のOSN Streamingから株式非公開化株式非公開化かぶしきひこうかいかTake-private上場企業の株式を買収するなどして、公開市場で売買されない状態へ移すこと。会社の事業終了を意味せず、所有や資金調達の仕組みが変わる。用語集で詳しくの予備提案を受けたと公表した。未保有の普通株式を、1株3.39ドルの現金で取得する内容だ。

外から現れた買収者ではない。OSNと関連会社の保有比率は、ワラントを含めると71.3%。OSNは提案書で、自らの持ち分を第三者に売る意思はないと明記した。別の買い手が会社全体を取得する道は狭いと見られる。すでに支配権支配権しはいけんControlling Interest会社の重要な意思決定を左右できる持分や権限を指す言葉。単に利益の一部を受け取ることとは異なり、誰が事業の方向性を決められるかを読む際の焦点となる。用語集で詳しくを持つ側が、残る株主との関係をどう整理するかという提案である。

目を引くのは、価格に上乗せがないことだ。株価は6月18日に約5.90ドルだったが、6月30日の終値は約3.24ドル。OSNは3.39ドルを6月5日までの3カ月間の出来高加重平均加重平均かじゅうへいきんWeighted average複数の数値をまとめる際、それぞれに異なる重みを付けて求める平均。どのデータを重く扱うかによって、最終的な評価や順位が変わり得る。用語集で詳しく株価に基づく額とし、取引量の少ない市場価格は本源的価値の信頼できる尺度ではないと説明した。

増収の裏にある、親会社への依存

Anghamiは2012年にレバノンで設立され、2022年2月に合併を通じてNasdaqへ上場した。当時の企業評価額は2億2,000万ドル。だが株価は低迷し、上場を維持するため、2025年8月には10株を1株にまとめる株式併合を実施した。過去と足元の株価を、そのまま並べることはできない。

事業が縮んでいるわけではない。2025年の売上高は前年比27%増の9,930万ドル。有料契約者は350万人超、登録ユーザーは1億3,000万人超に達した。一方、2025年上半期は売上高4,840万ドルに対し、純損失が3,710万ドル。利用者の蓄積と、利益を生む構造の確立は別の課題として残っていた。

OSNは2024年4月に経営の主導権を握り、映像サービスOSN+をAnghamiに統合。同年12月には最大5,500万ドルの追加資金を約束した。さらに2025年3月、Warner Bros. Discovery証拠開示しょうこかいじDiscovery訴訟に関係する資料や情報を当事者間で取得・提示する手続き。米国の民事訴訟では、相手方が保有する記録や証言を得て、争点を検証する重要な過程となる。用語集で詳しくがOSN Streamingへの5,700万ドルの少数持ち分投資を完了した。地域の音楽配信は、映像と資金を束ねる事業の一部にもなっている。

市場から離れることと、価値が高まること

今回の提案を、音楽配信全体が公開市場に見放された証拠と読むのは早い。出典のMusic Business Worldwideも、大手配信企業の評価とAnghamiの状況を区別する。ここにあるのは、小規模で赤字が続き、売買も薄い企業の問題だ。地域での利用の広がりが、そのまま株式のバリュエーションバリュエーションValuation企業や資産の価値を見積もること、またはその評価額。収益や保有資産、成長の見込みなどで変わり、株価や買収提案額と必ず一致するものではない。用語集で詳しくに映るとは限らない。

残る約299万株を取得する費用は、同誌の試算で1,000万ドル強。ただし、これは残余株式の取得額であり、会社全体の価値ではない。買収資金にはWarner Bros. Discovery証拠開示しょうこかいじDiscovery訴訟に関係する資料や情報を当事者間で取得・提示する手続き。米国の民事訴訟では、相手方が保有する記録や証言を得て、争点を検証する重要な過程となる。用語集で詳しくを含むOSN側株主の資金提供が想定されるが、その条件は未交渉とされている。取得価格だけでなく、誰が次の資金を担うのかが重要になる。

この先1〜3年の見どころは、非公開化株式非公開化かぶしきひこうかいかTake-private上場企業の株式を買収するなどして、公開市場で売買されない状態へ移すこと。会社の事業終了を意味せず、所有や資金調達の仕組みが変わる。用語集で詳しくそのものより、その後も地域向けの音楽・映像サービスを支える資金が続くかにある。上場を離れれば株価の日々の変動から距離を置く可能性はある。しかし、赤字が解消するとは限らない。音楽単独ではなく映像も含めた事業として、どのように収益を育てるのかが問われる。

取引はまだ確定していない。取締役会は独立取締役による特別委員会を設け、提案を検討する。実行する場合はケイマン諸島法に基づく合併となり、株主総会で投票された株式の3分の2の賛成が必要だ。支配株主の意向と、少数株主にとっての条件の妥当性を、同じものとして扱うことはできない。

日本から見る、地域サービスの資本

日本からこの話を読む際、まず切り分けたいのは、サービスの利用価値と株式の投資価値である。日本市場との直接の比較に必要な契約者数や収益構造は、出典にはない。Anghamiの数字を、そのまま日本の配信事業の将来像に置き換えることはできない。

それでも、地域に根ざした配信サービスが、どの資本の下で続いていくのかという論点は見える。Anghamiでは音楽、映像、親会社の資金が結びつき、上場を続ける意味が問い直されている。2026年6月末にあった兆しは、配信の成長の終わりではなく、その成長を支える所有の形の再検討である。

この記事は、2026年10月に、当時(2026年7月1日(水))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。

EVIDENCE出典

  1. 二次Music Business Worldwide2026-07-02

    Spotify rival Anghami receives take-private offer from its controlling shareholdermusicbusinessworldwide.com ↗

    “We are interested only in acquiring the outstanding Ordinary Shares that we do not already own, and that we do not intend to sell our stake in the Company to any third party.”

    当社が関心を持っているのは、まだ保有していない発行済み普通株式の取得のみであり、当社が保有する同社の持ち分を第三者に売却する意図はない。

    確認日 2026-10-18