楽曲が育てた企業価値の行方
音楽企業の売却益をめぐり、使用料を超えた還元論が浮上
楽曲の利用には使用料が支払われる。では、その楽曲を扱う企業が売却されたとき、作り手に何が戻るのか。2026年7月、The Orchard共同創業者のスコット・コーエンが、自身の売却経験を交えて問題を提起した。著作権への対価だけでなく、音楽が育てた企業価値への参加を問う議論である。

使用料の先に、もう一つの価値
楽曲が聴かれ、使われれば、その権利に対して音楽使用料音楽使用料おんがくしようりょうMusic royalties音楽の利用に伴い、権利を持つ側へ支払われる対価。会場が利用許諾のために払うお金と、個々の作り手に分配される金額は、分けて捉える必要がある。用語集で詳しくが支払われる。だが、楽曲を集め、届け、管理する企業そのものの価値が高まったとき、その利益は誰に帰属するのか。2026年7月17日、Music Business Worldwideに掲載されたスコット・コーエンの寄稿は、この別の財布に光を当てた。
コーエンはThe Orchardの共同創業者であり、Warner Music Groupで最高イノベーション責任者を務めた人物だ。外側から企業を批判するのではなく、自分も関わった事業売却を出発点にしている。音楽への支払いがあっても、音楽によって育った企業価値への参加までは保証されない。その区別が論点である。
ここで見える兆しは、還元制度の導入ではない。権利の対価を「利用された分への支払い」だけで捉えず、企業が生む商業的価値まで含めて語ろうとする動きだ。寄稿は意見表明であり、業界全体の合意や新しい契約の成立を示すものではない。
120億ドル超の取引が照らす配分
コーエンは1997年、リチャード・ゴッテラーとThe Orchardを共同設立した。同社は、独立系のアーティストやレーベルの作品を世界の聴き手へ届けるディストリビューターディストリビューターMusic distributorアーティストやレーベルから音源と楽曲情報を受け取り、音楽配信サービスへ届ける流通事業者。今回の取り組みでは、不正目的の音源を入口で防ぐ役割が焦点となる。用語集で詳しくとして成長。2015年にSony Musicが買収し、寄稿によれば年間売上高は20億ドルを超える。
その売却に立ち会ったコーエンは、企業価値を支えた作品を提供するアーティストとレーベルが、売却代金から受け取った金額はゼロだったと記す。不正があったという告発ではない。「そういうものだった」という商慣行への問いだ。楽曲の利用に対する支払いと、企業を売ることで得る対価は、別の仕組みで配分されていた。
問題提起の背景には、音楽事業の大型取引がある。コーエンは2026年上半期だけで、配信、権利管理、技術、楽曲群に関わる取引総額が120億ドルを超えたとする。Virgin MusicによるDowntown買収、BMGとConcordの合併、WMGによるRevelator買収などを挙げ、作品が支える事業の売買に目を向けている。
ただし、この金額は寄稿者が示した集計である。記事には算出方法や個々の契約条件は示されず、取引ごとの作り手への分配も独立には検証されていない。それでも、使用料収入とは別に大きな企業価値が取引されることと、その形成に作品が寄与していることを結びつけた点に、この議論の焦点がある。
権利の許諾から、企業価値への参加へ
コーエンが提案するのは、企業価値が作り手の権利、作品群、さらにはデータに大きく依存するなら、作り手もその価値の形成から経済的な利益を受け取れる仕組みを設けることだ。過去の取引への謝罪ではなく、次に何を組み立てるかへ議論を向けている。
ただし、寄稿は分配率も、参加資格も、支払う時点も定めていない。株式を持つのか、売却時の契約に組み込むのかといった具体策も示されない。理念から制度へ進むには、誰がどの価値を生んだと認めるか、作品を届ける事業者の貢献とどう区別するかという課題が残る。
この先1〜3年の見どころは、こうした問いがM&AM&AエムアンドエーMergers and acquisitions企業の合併や買収を指す言葉。事業規模だけでなく、人材、専門知識、取引関係などを取り込む手段にもなる。今回の記事は買収を伝えるが、金額や取得比率は示していない。用語集で詳しくの評価や契約交渉の言葉に入っていくかどうかだ。著作権著作権ちょさくけんCopyright楽曲や歌詞などの創作的な表現を保護する権利。出典は楽曲・歌詞・録音の保護と声のブランドを守る試みを区別し、商標を追加の手段として位置づけている。用語集で詳しくをどう許諾するかだけでなく、権利を扱う事業の成長を誰と分かち合うか。議論がそこまで広がる可能性はあるが、この寄稿だけで実装や普及を見通すことはできない。
日本から見ると、還元の単位が変わる
日本から読む際にも、使用料の条件と企業売却時の配分は分けて考える必要がある。海外企業の事例を、そのまま日本の契約や制度に当てはめることはできない。出典は日本の実態を扱っておらず、両者の差を判定する材料もない。
それでも読み取れるのは、「作り手への還元」の単位が広がり得ることだ。再生や利用に対する報酬だけでなく、作品を預かる会社が蓄える価値にも目を向ける。2026年7月の時点で現れていたのは、新しい配分制度そのものではなく、何を配分の対象と呼ぶかを問い直す言葉である。
この記事は、2026年10月に、当時(2026年7月18日(土))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。
EVIDENCE出典
- 二次Music Business Worldwide2026-07-17
Time to end music’s greatest injusticemusicbusinessworldwide.com ↗
“The value of music should not be solely distilled down to the royalties paid for copyrights. The value should extend to the commercial value that it creates for organizations.”
音楽の価値は、著作権に対して支払われる使用料だけに集約されるべきではない。その価値は、音楽が組織にもたらす商業的価値にまで及ぶべきだ。
確認日 2026-10-18


