1–3 YEARS · シーンと言説の潮流AI生成音楽

曲の外側に残る、契約の余白

大手レーベルのAI開示に浮かぶ、名前と肖像の権利の隙間

大手レーベルのAI戦略は、無断学習への訴訟だけでは見えない。Music Allyが財務開示を読み解いたところ、ライセンス契約や業務効率化と並び、アーティストの名前や肖像を使う事業への懸念も浮かんだ。2026年7月時点で見えていたのは、録音に強い権利を持つ会社でも、AIを介した収益化のすべてを握れるわけではないという境界だ。

クリーム色の背景に、黒いレコードと人物の横顔を表す青い輪郭を離して配置し、その間を細い線で結んだ抽象的な平面イラスト。

録音の権利だけでは届かない場所

大手レーベルがAIについて投資家に説明する言葉に、曲そのものとは別の懸念が現れている。アーティストの名前や肖像を使う事業を、自社が取り逃がす可能性だ。2026年7月6日付のMusic Allyは、Universal Music Group(UMG)、Warner Music Group(WMG)、ソニーの財務開示をたどり、この変化を拾っている。

UMGは2025年の報告書で、AI生成商品には、アーティストの名前・画像・肖像を指すNILNILエヌアイエルName, image, and likeness名前、画像、肖像など、人物や活動主体を識別する要素の商業利用に関わる権利の総称。楽曲そのものの権利とは区別され、許諾の範囲は契約による。用語集で詳しくや、商品化に関する権利に主として依存するものがあると説明した。同社がこれらに持つ権利は、録音に関する権利ほど強固ではない。そのため、アーティストがUMGを介さず、第三者とAIを使って収益化するリスクを挙げている。

ここで見えるのは、AIに音楽を奪われるという話だけではない。AIによって生じる商機のうち、どこまでが既存の契約で扱えるのかという境界である。アーティストが別の相手と組める余地を、レーベル自身が事業上のリスクとして記している。

遠い技術から、契約と実務の対象へ

Music Allyは、2020年以降の開示を大きく三つの段階に分けた。2020〜22年には、AIは将来の成長や混乱をもたらし得る新技術の一つだった。2023〜24年には生成AI生成AIせいせいエーアイGenerative AI学習したデータのパターンをもとに、音声や画像、文章などを生成する技術の総称。音楽では作曲、歌声、演奏など、使われる工程によって役割が異なる。用語集で詳しくサービスの拡大を受け、学習への商用音楽の無断利用や、訴訟に敗れた場合の影響が、投資家向けの説明で前面に出る。

ただし、防御だけが進んだわけではない。UMGは2023年の報告書で「攻めと守り」の戦略を示し、YouTubeとの取り組みやEndelとの提携に言及した。2025〜26年の段階ではUdio、またWMGについてはSunoとの契約も進み、権利者への保護策を備えた、正式なライセンスライセンスLicensing一定の条件のもとで利用を認めること。声や姿の複製では、誰が何に同意したのかが重要で、楽曲や録音を使う許可とは区別して考えられる。用語集で詳しくに基づくサービスへの移行が投資家に説明されている。

並行して、生成AI音楽生成AI音楽せいせいエーアイおんがくGenerative AI music学習したデータの特徴をもとに、AIが楽曲や歌声、録音などを生成する技術や、その生成物。生成できることと、利用や公開の権利が認められることは別の問題となる。用語集で詳しくがストリーミングストリーミングMusic streamingネットワーク経由で音源を受信しながら再生する提供方式。音楽市場では有料契約や広告などに支えられるが、市場収入と個々のアーティストの受取額は同じ指標ではない。用語集で詳しくの収益配分に与える圧力も論点になった。UMGの2025年報告書は、大量のAI音楽によって人間のアーティストや作曲家に配分される使用料の原資が薄まらないよう、配信サービスとの契約で対応する方針を示す。争点は生成を認めるか否かにとどまらず、その音楽をどの条件で流通させ、収入をどう分けるかへ広がっている。

業務内部でもAIの用途は増えている。WMGはコード生成やマーケティング、アーティスト発掘の精度向上を挙げ、UMGはデータ分析、音質確認、コンテンツへのタグ付けなどに言及した。ソニーは企業向けの大規模言語モデルのツールを5万人超の従業員が使い、AI関連の試行事業試行事業しこうじぎょうPilot programme制度を本格的に続ける前に、対象や期間を区切って実施する事業。運用や効果を確かめる機会となるが、実施した事実だけで有効性が証明されたとは言えない。用語集で詳しくが300件超あると説明した。ただし、これはソニー全体の数字であり、音楽事業だけの導入規模ではない。

次に問われる、誰を通じて収益化するか

この時点から先の数年を見るうえで、NILNILエヌアイエルName, image, and likeness名前、画像、肖像など、人物や活動主体を識別する要素の商業利用に関わる権利の総称。楽曲そのものの権利とは区別され、許諾の範囲は契約による。用語集で詳しくへの言及は小さいが重要な手がかりになる。録音の利用許諾が整っても、名前や肖像に依存する商品まで同じ契約で扱えるとは限らない。AI事業者がレーベルと契約する経路に加え、アーティスト本人と第三者が直接組む経路が広がる可能性がある。

もっとも、開示されているのはUMGが認識するリスクであり、その経路がどれほどの売上を生むかは示されていない。アーティスト側の収入増を裏付ける数字でもない。見えているのは、録音に関する権利の強さだけでは、AI関連事業への関与を保証できないという構造だ。

拡大を支える条件も単純ではない。UMGは新たなAI法制への対応に伴う監視や法令順守の費用、AI利用に対するファンやアーティストの否定的な反応もリスクに挙げた。契約できること、運用できること、受け入れられること。それぞれが別の条件として残っている。

日本から見る、権利を一括りにしない視点

日本から読む際にも、海外大手の契約上の立場と、国内の個々のアーティストの条件は分けて考える必要がある。この記事は日本の契約慣行を比較したものではなく、名前や肖像の権利を誰が扱えるかについて、同じ構図がそのまま当てはまるとは言えない。

それでも、生成AI音楽生成AI音楽せいせいエーアイおんがくGenerative AI music学習したデータの特徴をもとに、AIが楽曲や歌声、録音などを生成する技術や、その生成物。生成できることと、利用や公開の権利が認められることは別の問題となる。用語集で詳しくをめぐる議論を、曲の学習や生成だけに閉じない視点は読み取れる。録音、名前、肖像、商品化では、契約で確保される範囲が異なり得る。大手の財務開示に現れたのは、AIの性能だけでなく、その事業に誰が参加できるのかを左右する、権利ごとの境界だった。

この記事は、2026年10月に、当時(2026年7月6日(月))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。

EVIDENCE出典

  1. 二次Music Ally2026-07-06

    Want to know how the major labels see AI? Check their financial filings...musically.com ↗

    “UMG’s rights in NIL and merchandising are not as robust as they are in recorded music, and there is a risk that artists will work with third parties using AI to monetise those rights rather than through UMG”

    NILと商品化に関するUMGの権利は、録音に関する権利ほど強固ではなく、アーティストがUMGを通さず、第三者と協力してAIでそれらの権利を収益化するリスクがある。

    確認日 2026-10-18

PUBLISHED 2026.07.06 · 著者 Andown · 引用元 Music Ally