配信の伸びしろを支える仕事
EU録音音楽市場は60億ユーロ、投資と権利運用に焦点
EUの録音音楽収入は2025年に60億ユーロへ達した。IFPIの新報告が成長の土台として挙げるのは、レーベルによる才能への投資と、既存の法制度の実効性だ。契約形態の変化を示す資料ではないが、配信市場の余地をアーティストの活動につなぐ役割から、レーベルを捉える視点が浮かぶ。

市場の成長から、支える仕事へ
EUの録音音楽収入が、2025年に60億ユーロに達した。前年比5.1%増。IFPIが2026年9月9日に公表した「Music in the EU 2026」の紹介記事によると、世界の録音音楽収入の21.3%を占める。これはライブを含む音楽産業全体ではなく、録音音楽の市場を示す数字だ。
その成長について、IFPIはレーベルによる新人の発掘、育成、プロモーションへの継続投資を土台に挙げる。注目したいのは、市場規模だけではない。作品を送り出す前後に、誰が資金を出し、誰が聴き手との接点をつくるのか。レーベルの役割を、そうした仕事の束として読む手がかりがある。
ただし、記事はサービス契約の拡大や、アーティストとの収益配分の変化を示してはいない。レーベルのサービス会社化が進んだ証拠とは区別が必要だ。ここに見える兆しは、レーベルの価値を説明する際、投資と育成、権利を機能させる環境が、一続きの論点として置かれていることである。
配信収入と、まだ届いていない層
記事によると、2025年に世界のレーベルがA&RA&RエーアンドアールArtists and Repertoireアーティストの発掘や育成、楽曲・制作方針の検討などを担うレーベルの機能。広告や宣伝を中心とするマーケティングとは区別されるが、活動を支えるうえで連動する。用語集で詳しくとマーケティングに投じた額は93億米ドル、ユーロ換算で83億ユーロだった。これはEUだけの投資額ではない。EUの市場収入とそのまま比較し、投資比率を求めることはできないが、才能の発掘から認知の獲得までを支える費用の規模は読み取れる。
収入面では、ストリーミングストリーミングMusic streamingネットワーク経由で音源を受信しながら再生する提供方式。音楽市場では有料契約や広告などに支えられるが、市場収入と個々のアーティストの受取額は同じ指標ではない。用語集で詳しくが欧州の録音音楽収入の約66%を占め、成長の主な推進力とされる。一方、EUの有料音楽ストリーミング加入率有料音楽ストリーミング加入率ゆうりょうおんがくストリーミングかにゅうりつPaid music streaming subscriber penetration有料の音楽配信契約が対象地域にどれほど普及しているかを示す指標。人口など何を分母にし、家族向け契約をどう数えるかによって値の意味が変わるため、集計定義の確認が要る。用語集で詳しくは27%。米国の54%、英国の47%より低い。記事はここに成長余地を見るが、加入率の差だけで、今後の伸び幅や到達時期が決まるわけではない。
地域の音楽も存在感を保つ。記事では、各国の年間トップ10に入った楽曲の53.5%が、その国のアーティストによるものだったとされる。世界に届く経路と、国内の聴き手に届く経路は重なりながらも同じではない。配信へのアクセスが広がるほど、どの作品をどう紹介するかという仕事が、レーベルの役割を考える材料になる。
次の成長を、制度の運用につなぐ
IFPIが政策面で求めているのは、既存法の効果的な実施と執行である。AIについても、意味のある透明性の確保を含む、責任あるイノベーションへの支援を掲げる。これは業界団体による政策提言であり、制度がすでに十分機能しているという実績報告ではない。成長の説明と、成長を支える条件への要望が、同じ記事に並んでいる。
ここから3〜5年の構造変化を考えるなら、焦点の一つは、配信の拡大が投資と権利行使にどう結びつくかだろう。加入者の増加が進めば、レーベルには、より多様な聴き手へ作品を届ける支援の余地が生まれる可能性がある。同時に、AIを含む新技術の利用条件や透明性が、投資を回収する環境にも関わると考えられる。
ただし、この資料だけでは、新しい契約の広がりも、支援を受けたアーティストの収益改善も確認できない。市場の拡大、レーベルの投資、創作者が権利から利益を得ることは、同義ではない。今後の変化を読むには、その間をつなぐ具体的なサービスや契約条件が見える必要がある。
日本からは、役割の分け方を見る
日本との比較には留保がある。出典には日本の加入率やレーベルの投資額、契約形態のデータがなく、EUと日本が同じ段階にあるとは判断できない。また、EU全体の数字は、域内の個々の市場が同じ構造であることを意味しない。世界の上位20市場のうち9市場がEUにあるという規模と、各国の音楽の強さを、併せて読む必要がある。
そのうえで受け取れるのは、レーベルを作品の発売元としてだけ捉えない視点だ。発掘と育成、聴き手への橋渡し、権利から収益を得られる環境。それぞれを分けて見ると、何をレーベルが担い、何が制度に委ねられているのかが見えやすくなる。60億ユーロという市場の先にあるのは、その役割分担の具体像である。
EVIDENCE出典
- 一次IFPI2026-09-09
“This success is underpinned by sustained investment from record companies in discovering, developing and promoting new talent.”
この成功を支えているのは、新たな才能の発掘、育成、プロモーションに対するレコード会社の継続的な投資である。
確認日 2026-10-18


