1–3 YEARS · シーンと言説の潮流AI生成音楽著作権の再発明
契約の広がりを支える開示の条件
英音楽業界、AI学習の許諾市場を支える3条件を提示
英国のレコード業界団体BPIは2026年5月14日、AIと音楽のライセンス市場を支える政策提言を公表した。焦点は学習への許諾だけでなく、学習データの開示と海外で訓練されたモデルへの適用にもある。契約の芽を市場へ育てるための条件が、既存の合意や独立系レーベルの意向とともに示された。

許諾する市場は、すでに動き始めている
AIに音楽を学習させるか、させないか。その二択の手前で、許諾を交わす市場が形を取り始めている。英国のレコード業界団体BPIが2026年5月14日に公表した報告書は、その芽を、政府が支えるべき経済活動として提示した。
調査を委託されたのはWPI Economics。Music Allyによると、報告書は音楽分野でAI企業などとの主要な契約を26件挙げた。相手先にはSuno、Udio、Nvidia、Spotifyなどが含まれる。多くを結んだのは大手レーベル3社とMerlinで、一部には権利管理団体権利管理団体けんりかんりだんたいCollective management organization多数の権利者に代わり、音楽などの利用に伴う使用料の徴収や分配を担う組織。扱う権利や地域は団体ごとに異なり、海外団体との協定が回収経路になる。用語集で詳しくの契約もある。
ここで見える兆しは、生成AI生成AIせいせいエーアイGenerative AI学習したデータのパターンをもとに、音声や画像、文章などを生成する技術の総称。音楽では作曲、歌声、演奏など、使われる工程によって役割が異なる。用語集で詳しくを一律に拒む姿勢ではない。作品の利用を認めるライセンスライセンスLicensing一定の条件のもとで利用を認めること。声や姿の複製では、誰が何に同意したのかが重要で、楽曲や録音を使う許可とは区別して考えられる。用語集で詳しくを、どの条件なら広げられるかという議論への具体化だ。ただし、26件は同じ利用内容や契約条件を意味しない。記事からは、個々の契約の対価や学習対象の範囲までは確認できない。
契約への関心と、見えない学習データ学習データがくしゅうデータTraining DataAIがパターンや特徴を学ぶために使うデータ。音楽では楽曲や音声などが対象になり得るが、個別サービスの収集内容や利用条件は、開示資料などによる確認が必要となる。用語集で詳しく
報告書は、2026年時点で創造産業全体の権利者とAI企業の商業ライセンスライセンスLicensing一定の条件のもとで利用を認めること。声や姿の複製では、誰が何に同意したのかが重要で、楽曲や録音を使う許可とは区別して考えられる。用語集で詳しく契約が274件に達したとする。音楽だけの件数ではない点には注意が要る。一方、BPIが加盟する独立系レーベルを調べたところ、16%はすでに提携を模索し、77%はAIによる「倫理的な利用」への楽曲提供に前向きだった。
同じ調査では97%が、既存の著作権著作権ちょさくけんCopyright楽曲や歌詞などの創作的な表現を保護する権利。出典は楽曲・歌詞・録音の保護と声のブランドを守る試みを区別し、商標を追加の手段として位置づけている。用語集で詳しく制度はAIへの許諾に適しており、自社事業に不可欠だと答えた。この数字が示すのは、制度を変えて利用を容易にするより、現行制度の下で取引したいという回答企業の意向である。調査対象はBPIの加盟社であり、音楽業界全体の総意とまでは読めない。
背景には、英国政府がAI企業向けにテキスト・データマイニングテキスト・データマイニングText and Data Mining文章やデータを機械的に分析し、特徴や関係を取り出すこと。著作権法では、その過程で必要となる複製などを、どの条件で許諾なしに行えるかが論点になる。用語集で詳しくの例外を設ける可能性をめぐる議論がある。許可やライセンスライセンスLicensing一定の条件のもとで利用を認めること。声や姿の複製では、誰が何に同意したのかが重要で、楽曲や録音を使う許可とは区別して考えられる。用語集で詳しくなしで著作物を学習に使えるようにする案だ。技術業界団体TechUKは例外を求めて働きかけており、BPIとは政策上の立場が異なる。
BPI側は、法改正をめぐる不確実性に加え、AIが何を学習したか分からないことを交渉の障壁に挙げる。提言は、既存の著作権著作権ちょさくけんCopyright楽曲や歌詞などの創作的な表現を保護する権利。出典は楽曲・歌詞・録音の保護と声のブランドを守る試みを区別し、商標を追加の手段として位置づけている。用語集で詳しく制度の維持、学習に使った素材の透明化、英国で利用に供されるすべてのモデルへの適用の3点。海外で訓練したモデルも対象に含める構想である。
経済面の裏付けとして報告書が示したのは、2024年の英国音楽産業の経済的価値80億ポンドと、そのうち輸出48億ポンド、雇用22万人だ。消費者調査でも、作品が新曲生成に使われた場合の権利者・アーティストへの支払いと、音楽や声の利用に対する許可について、それぞれ77%が支持した。ただし、いずれも提言を行う側が委託した報告書の数字として読む必要がある。
広がりを左右するのは、契約前の情報
この時点から1〜3年を見渡すと、注目点は契約件数だけではない。独立系レーベルにも許諾への関心がある一方、実際に提携を探る割合との間には隔たりがある。何がすでに使われ、これから何を認めるのか。その情報を双方が確認できるかが、市場の裾野に関わる可能性がある。
学習素材の開示は、この意味で権利侵害を追及するためだけの論点ではない。交渉に入るための情報基盤としても位置づけられている。国外で訓練されたモデルまで対象にする提案も、国内の許諾市場と国境を越えるAIサービスを接続しようとするものだ。もっとも、5月14日時点では業界の要望であり、実施済みの制度ではない。
Music Allyは、政府内の政治的対立が政策への対応を遅らせ得ることにも触れている。業界の提言がまとまり、契約例が積み重なっても、それが直ちに立法へ結びつくわけではない。市場の動きと政策の速度は、分けて見る必要がある。
日本から見ると、開示も許諾の一部になる
日本からこの動きを読む際、英国向けの提言を、そのまま国内制度の説明にはできない。今回の記事は日本の法制度や契約実態を扱っていない。英国では、既存制度を維持する要求と、学習情報を開示させる要求が一組になっている。その組み合わせが、この事例から読み取れる具体的な論点だ。
音楽をAIに使わせるという合意も、何に使われたかが見えなければ交渉しにくい。BPIの報告書が照らしたのは、許諾を取引へつなぐための情報の条件である。AIと音楽の関係が、利用の可否だけでなく、取引を成立させる手続きとして語られ始めている。
この記事は、2026年10月に、当時(2026年5月14日(木))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。
EVIDENCE出典
- 二次Music Ally2026-05-14
How should AI licensing work for music? The BPI has some ideas...musically.com ↗
“For this market to scale successfully, the Government must support it through a firm commitment to upholding existing copyright laws and mandating record keeping and disclosure.”
この市場が順調に拡大するには、政府が既存の著作権法の維持に明確に取り組み、記録の保存と開示を義務づけることで支える必要がある。
確認日 2026-10-18


