1–3 YEARS · シーンと言説の潮流スーパーファン経済ダイレクト・トゥ・ファン
熱心な聴き手との接点を増やす
UMG、直販1,600店の先に描く外部ファン基盤との連携
音楽ファンとの直接的な関係は、自社の販売サイトだけで完結しない。2026年3月5日の決算説明会で、UMGは1,600のオンラインストアに加え、外部のファン向けサービスや配信の上位プランを並走させる構想を示した。物販の拡大から、体験と接点を複数の場所に育てる事業へ。その時点にあった兆しを読む。

直販サイトの外にも、ファンとの接点
ファンに直接売る事業を広げながら、その接点を自社の店だけには閉じない。2026年3月5日、UMGの決算説明会で見えたのは、そんな構想だった。会長兼CEOのルシアン・グレンジは、同社のD2CD2CDirect-to-Consumerアーティストやレーベルがファンへ直接、作品や商品、会員サービスなどを届ける仕組み。販売だけでなく、購入後も連絡できる関係づくりを含む。用語集で詳しく事業が1,600のオンラインストアに広がり、売上高は数億ドル規模に達したと説明した。
その先に置かれたのが、スーパーファンスーパーファンSuperfan特定のアーティストや作品に強い関心を持ち、継続的に関わるファンを指す言葉。支出だけでなく参加や応援も含み、誰を数えるかは調査や事業によって異なる。用語集で詳しく向けの外部サービス群である。それぞれ異なる仕組みを持つ第三者のプラットフォームを育て、従来の音楽配信サービスが開発する上位プランと並走させる。自社直販を単独で伸ばすのではなく、複数の事業者がファンとの関係を担うという設計だ。
対象は商品だけではない。特別なイベントや体験を、オンラインと現実の双方で提供するという。ここでの兆しは、熱心な聴き手の購買力に注目したこと以上に、その人たちと接する場所を複線化しようとしている点にある。
好業績の先に置かれた、次の収益源
この構想は、既存事業の落ち込みを補う策として説明されたものではない。UMGの2025年通期は、売上高と調整後EBITDAEBITDAイービットディーエーEarnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization利払い、税金、減価償却などの影響を除いて利益を見る指標。企業の事業収益力を比べる際に使われるが、現金収支や最終利益そのものではない。用語集で詳しくがともに前年比で約9%増加。第4四半期の売上高は36億500万ユーロで、為替変動の影響を除くと10.6%増だった。好業績を背景に、次の成長領域としてファン向け事業が位置づけられた。
グレンジは、魅力的な商品や体験への需要に対し、この領域の収益化はまだ不十分だと述べた。ただし、それは経営側の評価である。説明会で示されたストア数と売上規模だけでは、購入者の人数や継続率、個々の店舗の採算までは分からない。店舗の拡大と、持続するファンとの関係は、同じ指標では測れない。
もう一つの手がかりが生成AI生成AIせいせいエーアイGenerative AI学習したデータのパターンをもとに、音声や画像、文章などを生成する技術の総称。音楽では作曲、歌声、演奏など、使われる工程によって役割が異なる。用語集で詳しくだ。UMGは、楽曲を一方的に生成する用途だけでなく、ファンが音楽を個別化したり、参加したりする新しい形式を想定している。1月に発表したNVIDIAとの複数年提携も、その文脈で紹介された。音楽を探す、聴く、手を加えるという行為が、ファン向け体験の候補になっている。
ただし、AIなら何でも歓迎されるという調査結果ではない。UMGが13カ国の2万8,000人を対象に行った調査では、音楽配信の利用者の69%がAIアーティストに関心を示さず、76%はAI生成であることの明示を求めた。一方、音楽でのAI利用に前向きな消費者では、個別化されたプレイリストや音楽のカスタマイズへの関心が35%だった。調査対象の違う数字を、ひと続きの需要として読むことはできない。
今後の焦点は、店の数より接点のつながり
この時点から先の1〜3年を見るなら、焦点は直販ストアの増加だけではない。物販、特別なイベント、配信の上位プラン、参加型の音楽体験が、どのように並び立つかである。UMGは外部サービス間の競争が革新を促すと説明したが、どの形式が定着するかは、まだ示されていない。
重要なのは、「直接つながる」ことが必ずしも「仲介者がいない」ことを意味しない点だ。今回の構想では、むしろ専門のサービスが増える。販売を担う場所と、交流や体験を担う場所が分かれる可能性がある。外部基盤の活用によって接点が増えても、その関係を誰が把握し、継続できるかは別の論点として残る。
AIによる個別化も、構想と実績を分けて見る必要がある。説明会では新しい形式への期待が語られたものの、具体的な料金や普及規模は示されていない。人の創造性を補う用途への関心と、透明性への要求。この両方が、今後のファン向けサービスを読む条件になる。
日本から見る、直販の外側
日本からこの動きを読む際にも、海外の数値をそのまま国内需要に置き換えることはできない。出典には、調査の日本に関する内訳も、国内の直販事業との比較もない。1,600というストア数は、UMGの事業の広がりを示す数字であり、日本のファンが求める体験や支出額を説明する数字ではない。
それでも比較の軸は見える。直販を「どこで商品を売るか」だけでなく、「誰がどの場面でファンとの関係を担うか」として捉えることだ。2026年3月のUMGが示したのは、自社の販売網を持ちながら、その外にも関係の入口を育てる構想だった。ファンとの近さを、一つの場所に集めない事業の形が試されようとしていた。
この記事は、2026年10月に、当時(2026年3月5日(木))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。
EVIDENCE出典
- 二次Music Business Worldwide2026-03-06
“We will further scale our D2C business by stimulating an entire category of third-party superfan platforms, each with its own distinctive approach and model”
それぞれ独自の手法とモデルを持つ第三者のスーパーファン向けプラットフォーム群を活性化することで、当社のD2C事業をさらに拡大する。
確認日 2026-10-18


