1–3 YEARS · シーンと言説の潮流AI生成音楽

完成品ではなく、協働への下書き

未発表曲を人間の歌手へ渡す、ギーザー・バトラーのAI活用

ブラック・サバスのベーシスト、ギーザー・バトラーが、1980年代以降に書きためた未発表曲の整理にAIの歌声を使っている。狙いは、人間の歌手に制作意図を伝えることだ。2026年初頭に報じられたこの実践には、生成AIを完成品の供給源だけでなく、共同制作へ進むための下書きとして使う兆しがある。

クリーム色の背景に、保管された楽譜から青い音の波が伸び、赤いマイクへつながる様子を描いた抽象的な平面イラスト

歌手がいない時間に、曲を前へ進める

未発表曲を止めていたのは、曲の不足ではなかった。ブラック・サバスブラック・サバス Black SabbathSpotify で探すApple Musicのベーシスト、ギーザー・バトラーギーザー・バトラー Geezer ButlerSpotify で探すApple Musicには、自宅で制作するときに歌ってくれる人がいなかった。2026年初頭のDigital Music Newsの記事で明かされたのは、その空白にAIの歌声を置く使い方である。

バトラーは米国のイベント、Steel City Conでの質疑応答で、1980年代以降に書いた楽曲を見直していると語った。きっかけは、2025年7月のブラック・サバスブラック・サバス Black SabbathSpotify で探すApple Musicの最終公演後に始めた作品の整理。歌詞をAIの歌声で聞ける形にし、今後アルバムで一緒に仕事をする歌手へ持っていくという。

ここでAIは、最終的な歌手として説明されていない。ベースのリフだけを弾いて「これに歌える?」と尋ねる代わりに、自分が求めるものを、より伝わる形にする。生成AI生成AIせいせいエーアイGenerative AI学習したデータのパターンをもとに、音声や画像、文章などを生成する技術の総称。音楽では作曲、歌声、演奏など、使われる工程によって役割が異なる。用語集で詳しくの役割が、作品の完成から一歩手前に置かれている点が、この事例の兆しだ。

1980年代の素材と、共同制作の順序

記事に楽曲数の記載はない。バトラー自身は、大量の素材があると話している。確認できる時間の幅は1980年代以降。新曲を素早く増やすというより、長く手元にあった作品を、他者と制作できる状態に近づける用途である。

ブラック・サバスブラック・サバス Black SabbathSpotify で探すApple Musicでの作曲は、同じ部屋で演奏を重ねるところから始まったという。使えそうなリフができたら音楽部分を仕上げ、オジー・オズボーンオジー・オズボーン Ozzy OsbourneSpotify で探すApple Musicが歌のラインを歌い、その後にバトラーが歌詞を書く。歌声と歌詞は、人が集まる工程の中で形になっていた。

今回の方法では、その順序が変わる。自宅で歌詞を歌声にしてから、人間の歌手へ渡す。全員がそろう前に、曲の方向を共有する材料を用意できるということだ。バトラーは、AIで作業したものを本職の音楽家へ持っていき、そこから引き継いでもらうことが助けになったと説明している。

この工程は、人間の制作をAIが補助するAI-AssistedAI-AssistedAI-Assisted人間が実質的に制作し、一部の表現要素に生成AIを使った録音に付けるラベル。今回の定義では、主たる歌唱と主要な楽器演奏は人間が担うことが条件となる。用語集で詳しくという見方で捉えられる。ただし、記事には使用サービス名も、歌声を生成する具体的な操作もない。どこまでを本人が指定し、どこからをシステムが補ったかは分からない。確認できるのは、本人が書いた素材と歌詞を、人間との次の作業へつなごうとしていることだ。

広がりの焦点は、完成よりも引き渡し

この時点から先の1〜3年を見るなら、注目点はAIの声が人間を置き換えるかどうかだけではない。未完成の曲を、他者が参加しやすい下書きへ変える使い方が、どこまで共有されるかである。歌手と同じ場所にいない制作者や、古い素材を抱える音楽家にとっても、同様の工程が選択肢になる可能性はある。

もっとも、これは一人の音楽家による実践だ。制作時間の短縮、費用、完成曲の品質について、記事は比較データを示していない。アルバムの発売日や参加歌手も明らかではなく、この方法が広く定着するとまでは言えない。

同時に見えてくるのが、クリエイティブ・コントロールクリエイティブ・コントロールCreative control作品の内容や表現について、制作者が判断できる権限。制作資金の提供や作品の所有権とは別の論点で、どこまで裁量を持てるかは契約によって異なる。用語集で詳しくの所在である。バトラーは、自分の望むアルバム像を伝えやすくなったと話す。一方、その下書きを受け取る歌手が、どれほど自由に歌を作り直せるかは記事から分からない。意図を伝える助けになることと、協働の余地を残すこと。その両方が、引き渡しの場面で問われ得る。

日本から読む、補助と代替の境界

この記事だけで、英国と日本の制作現場におけるAI利用の差は測れない。日本で同様の方法がどれほど使われているかも分からない。ただ、受け取れる区別はある。AIの歌声を公開する作品として使う場合と、人間に歌ってもらう前の資料として使う場合では、制作上の位置づけが異なる。

「AIを使った曲」という一括りの言葉では、その違いは見えにくい。誰が素材を書き、誰に渡し、最後に誰が表現を担うのか。バトラーの説明は、その工程を一つ具体的にした。学習素材の権利処理や収益配分は報じられていない。作者や対価の問題への答えではなく、長く眠っていた曲を人間の協働へ戻す入口。2026年初頭に見えていたのは、その小さな用途である。

この記事は、2026年10月に、当時(2026年1月2日(金))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。

EVIDENCE出典

  1. 二次Digital Music News2026-01-03

    Black Sabbath Bassist Uses AI to Bring Unreleased Songs to Lifedigitalmusicnews.com ↗

    “But it’s so much better now, because you can sit in your studio and do everything on AI, and then take it to proper musicians and let them take over.”

    でも今はずっといい。自分のスタジオでAIを使って一通り作業し、それを本職の音楽家に持っていって、そこから引き継いでもらえるからだ。

    確認日 2026-10-18

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