1–3 YEARS · シーンと言説の潮流AI生成音楽著作権の再発明

例外づくりから市場づくりへ

英上院委員会、AI学習の許諾市場を支える制度を提言

英国で、AI学習を著作権の例外として認める議論から、許諾を基盤とする市場を育てる議論への転換が提言された。2026年3月上旬、上院の委員会が示したのは、新たな例外を設けず、学習データの透明性を求める方向だ。政府の方針公表を前に、音楽業界の要求が議会側の提言と重なった。

クリーム色の背景に、青いデータの束と赤い鍵を描き、許諾を介した学習素材へのアクセスを表す抽象的な平面イラスト。

例外ではなく、許諾の市場を

2026年3月上旬、英国上院の通信・デジタル委員会が、AIと著作権をめぐる報告書を公表した。CMUによると、柱はAI企業向けの新たな著作権例外を設けないこと、学習データの透明性を法的に義務づけること、そして声や姿などのデジタルな複製に対する新たな保護だ。音楽業界を含む権利者側の要求に沿った提言である。

注目したいのは、保護を求めるだけではなく、許諾を基盤としたAI開発を英国で育てるという位置づけだ。委員会は政府に対し、無許諾での大量利用を受け入れる方向ではなく、責任ある開発の拠点となる方向を選ぶよう求めた。著作権を、技術開発の制約だけでなく取引の土台として扱う発想が見える。

ただし、これは政府の決定ではない。音楽業界団体UK Musicの最高経営責任者トム・キールは歓迎したが、閣僚が何を採用するかは未確定だった。ここで見える兆しは、新制度の成立ではなく、業界の要求と議会の提言が「許諾市場の育成」という方向で重なったことにある。

妥協案が抱えた、許諾の時点

発端は、政府が2024年末に始めた意見募集だ。提案されたのは、テキスト・データマイニングテキスト・データマイニングText and Data Mining文章やデータを機械的に分析し、特徴や関係を取り出すこと。著作権法では、その過程で必要となる複製などを、どの条件で許諾なしに行えるかが論点になる。用語集で詳しくに関する新たな著作権例外。権利者が明示的に権利を留保しない限り、AI企業が既存の著作物を生成AI生成AIせいせいエーアイGenerative AI学習したデータのパターンをもとに、音声や画像、文章などを生成する技術の総称。音楽では作曲、歌声、演奏など、使われる工程によって役割が異なる。用語集で詳しくの学習に使えるという仕組みだった。利用を拒む側に手続きを求める、オプトアウトオプトアウトOpt-out利用や参加の対象から外れる意思を示すこと。AI学習では、作品を学習対象に含めないよう求める場面などで使われるが、除外の範囲や手続きは制度・契約によって異なる。用語集で詳しく方式である。

政府側は、大量の学習素材へのアクセスを求めるAI企業と、事前の許諾や対価を求める権利者の間を取る案と考えた。しかし、創作産業側は強く反発した。CMUは、オプトアウトオプトアウトOpt-out利用や参加の対象から外れる意思を示すこと。AI学習では、作品を学習対象に含めないよう求める場面などで使われるが、除外の範囲や手続きは制度・契約によって異なる。用語集で詳しく付きの例外がAI企業にとってどれほど有用かも明確ではないと指摘する。政府は支持姿勢をやや後退させたものの、なお妥協点を探していた。

別案として検討されていたのが、開発段階の学習は無許諾で認め、商用化の前にライセンスライセンスLicensing一定の条件のもとで利用を認めること。声や姿の複製では、誰が何に同意したのかが重要で、楽曲や録音を使う許可とは区別して考えられる。用語集で詳しくを取得させる方式だ。AI専門家で活動家のエド・ニュートン=レックスは、この案にも難点があると論じた。商用化の段階で一人の権利者が許諾を拒めば、多額の学習投資が無駄になり得るからだ。

それを避けるため権利者に許諾を強いる仕組みにすれば、今度は権利者側の反発が強まる。争点は単に料金の高低ではない。誰が、どの段階で利用を認めるのか。その順序が、開発投資の確実性と権利者の選択権の双方に関わっている。

次に問われるのは、取引の条件

政府には、前年のData (Use And Access) Actの規定により、3月18日までにAIと著作権に関する計画を公表する義務があった。委員のバーバラ・キーリーは、商用AIモデルの学習にオプトアウトオプトアウトOpt-out利用や参加の対象から外れる意思を示すこと。AI学習では、作品を学習対象に含めないよう求める場面などで使われるが、除外の範囲や手続きは制度・契約によって異なる。用語集で詳しく付きの新たな例外を導入しないと明言し、許諾を先に置く方式が育つ条件を整えるよう求めた。報告書は、その公表期限を前に出された提言だった。

この時点から先の1〜3年を見るなら、焦点になり得るのは、学習の可否だけでなく、許諾の取引が成立する条件である。学習データの透明性と利用許諾が結びつけば、何を使ったかの説明が、契約を支える情報になる可能性がある。ただし、報告書が実効的な制度や市場につながるかは、政府の対応と具体的な設計に左右される。

出典からは、契約の標準形、料金、小規模な権利者の参加方法までは分からない。「許諾市場を育てる」という方向と、誰もが利用できる市場ができることは同じではない。今回の提言が示したのは、その入口を著作権例外ではなく、許諾に置こうとする動きだ。

日本から見る、議論の分かれ目

日本から読む際には、英国で提案された例外制度と、国内での利用の可否を切り分ける必要がある。この記事は日本の制度や契約実務を扱っておらず、その違いを直接比較する材料はない。英国上院委員会の提言を、そのまま日本の法解釈の根拠とすることもできない。

それでも読み取れるのは、AI開発と創作の保護を対立だけで捉えず、両者の取引条件をどう作るかという問いである。学習前の許諾、利用内容の透明性、商用化までの投資の見通し。英国の議論では、それらが一つの制度設計として結びつき始めていた。

この記事は、2026年10月に、当時(2026年3月6日(金))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。

EVIDENCE出典

  1. 二次CMU(Complete Music Update)2026-03-07

    Lords tell UK government it needs to “choose between two AI futures”, before backing the kind of future the music industry wantscompletemusicupdate.com ↗

    “The government should now make clear it will not pursue a new TDM exception with an opt-out mechanism for training commercial AI models”

    政府は、商用AIモデルの学習について、オプトアウトの仕組みを伴う新たなTDM例外を導入しないと、ここで明確にすべきだ。

    確認日 2026-10-18