契約を終えた先にも残っていた国境
米控訴裁、作詞作曲家の著作権回復を海外にも認める判断
米国で契約を終了しても、海外の著作権は音楽出版社に残る。その実務に、米連邦控訴裁判所が異なる判断を示した。2026年1月15日時点の報道から見えるのは、作詞作曲家の権利回復を国内だけで完結させず、国際利用の利益や将来の契約交渉へつなげる動きである。ただし、すべての契約に一律の結論が出たわけではない。

権利を取り戻す範囲が、国境を越える
米国で取り戻した楽曲の権利が、海外では出版社の手元に残る。2026年1月15日付のMusic Allyが伝えたのは、その分断を問い直す司法判断である。米第5巡回区控訴裁判所は、作詞作曲家による著作権契約の終了と権利回復について、米国内だけでなく世界的な範囲を認める判断を示した。
対象となったのは、シリル・ヴェターシリル・ヴェター Cyril VetterSpotify で探すによる1963年の楽曲「Double Shot (Of My Baby’s Love)」。下級審の判断に続く今回の決定で、ヴェターは同曲について世界全体での権利を取り戻すことになると、同記事は報じている。ひとつの楽曲をめぐる争いが、権利を返す地域的な範囲へとつながった。
兆しは、契約を終了できることだけにはない。終了後に何が、どこまで戻るのかという問いである。米国内の権利を回復しても、海外での利用を管理する権利が戻らなければ、楽曲全体へのコントロールには境界が残る。今回の判断は、その境界を交渉力の問題として捉えている。
交渉力の是正と、積み重なった契約
背景には、著作権契約の終了を世界共通には適用しないという業界慣行がある。Music Allyによれば、米国内で契約終了が成立した後も、多くの音楽出版社音楽出版おんがくしゅっぱんMusic publishing歌詞やメロディーなど楽曲の著作権を管理し、利用の許諾や収益につなげる事業。特定の録音物を扱う権利とは区別され、契約によって管理や保有の範囲が異なる。用語集で詳しくは海外の著作権を保有し続けている。権利を取り戻す仕組みと、海外利用を管理する実務が、同じ範囲では動いてこなかった。
契約終了権移転終了権いてんしゅうりょうけんCopyright termination right著作権の移転を一定の条件で終了させる米国法上の権利。本件では、期間の経過に加え、本人が権利を保有し移転したかどうかが判断の中心となった。用語集で詳しくは、権利を譲った側が契約を終え、権利を回復するための仕組みである。控訴裁判所が示したのは、その目的が交渉力の均衡にあるなら、海外で結ばれた契約を対象外にすることは、創作者が法的権利を十分に行使する妨げになる、という考え方だった。国内での回復だけでは、その目的を満たしきれないという判断だ。
一方、業界団体は異なる重みを見ている。全米レコード協会と全米音楽出版社音楽出版おんがくしゅっぱんMusic publishing歌詞やメロディーなど楽曲の著作権を管理し、利用の許諾や収益につなげる事業。特定の録音物を扱う権利とは区別され、契約によって管理や保有の範囲が異なる。用語集で詳しく協会の弁護士は、下級審の判断が、録音物と音楽出版音楽出版おんがくしゅっぱんMusic publishing歌詞やメロディーなど楽曲の著作権を管理し、利用の許諾や収益につなげる事業。特定の録音物を扱う権利とは区別され、契約によって管理や保有の範囲が異なる。用語集で詳しくに関する数万件の契約の前提を揺るがすと主張した。これは対象契約を数えた調査結果ではなく、両団体側が法的意見書で示した影響範囲の認識である。
両団体が懸念するのは、大手レーベルや出版社への経済的な影響だ。対するヴェター側の弁護士は、恩恵が音楽以外の創作者にも及ぶと評価している。同じ判断が、一方には契約の安定性への問題、他方には権利回復の実効性を高めるものとして映る。その対立が、今回の争点の広さを示している。
今後の交渉で問われる、海外利用の利益
この時点から先の1〜3年を考えると、焦点となり得るのは、海外利用権海外利用権かいがいりようけんForeign exploitation rightsある国から見た国外で、作品を利用し、収益化することに関わる権利を指す表現。単一の権利名というより、地域をまたぐ契約上の権利範囲を捉えるために使われる。用語集で詳しくを契約上どう扱うかである。創作者支援団体のMusic Artists Coalitionは判断を歓迎し、楽曲のコントロールをどう取り戻すか、国際利用から誰が利益を得るか、将来の契約や交渉をどう形づくるかに関わると述べた。
ここから読み取れるのは、権利回復が過去の契約の整理にとどまらず、これから結ぶ契約の条件にも関わり得るということだ。世界での利用をまとめて扱うのか、地域ごとに分けるのか。終了時に戻る権利の範囲をどう記すのか。こうした点が、より明示的な交渉の対象になる可能性がある。
ただし、報道で具体的に確認できる権利回復はヴェターの楽曲についてである。すべての作詞作曲家が直ちに同じ結果を得られることや、各国の契約実務が一斉に変わることまでは示されていない。音楽以外への広がりも、現段階では弁護士側の見通しだ。判断の射程と、実際に及ぶ範囲は分けて見たい。
日本から見ると、権利の戻る場所が見える
日本から読む際には、米国の裁判所の判断と、日本の契約に適用されるルールを区別する必要がある。今回の出典は、日本で同様の契約終了が可能か、国内の出版社がどう対応するかを伝えてはいない。米国で認められた権利回復を、そのまま日本の制度の説明に置き換えることはできない。
それでも、海外を含む楽曲利用を見る視点は得られる。契約が終わる時期だけでなく、どの地域の権利が戻り、どの地域に残るのか。その違いが、創作者のコントロールと国際利用の利益を左右する。2026年1月の判断に見えていたのは、権利を返すという言葉の内側で、世界のどこまでを含めるのかが問われ始めたことである。
この記事は、2026年10月に、当時(2026年1月15日(木))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。
EVIDENCE出典
- 二次Music Ally2026-01-15
US federal court rules songwriters can regain copyrights globallymusically.com ↗
“The district court’s decision unsettles the bedrock understanding of foreign exploitation rights against which tens of thousands of agreements respecting recorded music and music publishing copyrights have been drafted, negotiated, and executed,”
地方裁判所の判断は、録音物と音楽出版の著作権に関する数万件の契約が起草され、交渉され、締結される際の前提となってきた、海外利用権についての根本的な理解を揺るがす。
確認日 2026-10-18
Artistsこの記事に登場するアーティスト
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