1–3 YEARS · シーンと言説の潮流声の権利著作権の再発明

声の保護と学習の適法性は別の問い

声の無断複製とAI学習、日米の判決が示す保護の条件

声を似せることと、作品を学習に使うこと。AIをめぐる二つの争点に、日米の裁判所がそれぞれ判断を示した。東京では声の商業的な利用目的が、米国では学習元のサービスとの競合が焦点になった。ただし、声の利用すべてを禁じた判断でも、生成AIの学習全般を違法とした判断でもない。その射程を分けて読む。

クリーム色の背景に、青い声の波形を囲む輪と、赤い文書から分岐する線を並べた抽象的なイラスト。

声と学習、別々の権利が動いた

AIによる声の複製を止められるのか。著作物をAIの学習に使う際、許諾は必要なのか。CMUが伝えた日米の裁判は、音楽にも関わる二つの問いを、異なる権利から扱ったものだ。見えてきたのは、一律の禁止や自由化ではなく、利用の目的と仕組みによって保護の範囲を分ける動きである。

東京地方裁判所の事件では、俳優の津田健次郎が、自身の声を複製したAIナレーションを含むとするTikTok上の188本の動画をめぐり、同社を訴えた。CMUによれば、日本の裁判所がパブリシティ権パブリシティ権Right of publicity氏名や肖像などが持つ顧客を引きつける力の商業利用に関わる権利。写真の著作権とは別の論点であり、保護の仕組みや範囲は国や地域によって異なる。用語集で詳しくとAIによる声の複製の関係を検討した初の事例だ。裁判所は、演者の声の無断使用が同権利の侵害となり得ると判断した。

一方、米国の第3巡回区控訴裁判所は、法律調査向けAIを開発したRoss IntelligenceによるフェアユースフェアユースFair Use米国著作権法で、利用の目的や性質などに照らし、権利者の許諾なしでも著作物の利用が認められる場合があるという原則。AI学習への適用は争われている。用語集で詳しくの主張を退けた。ただし、対象は生成AI生成AIせいせいエーアイGenerative AI学習したデータのパターンをもとに、音声や画像、文章などを生成する技術の総称。音楽では作曲、歌声、演奏など、使われる工程によって役割が異なる。用語集で詳しくではない。声の保護と学習の適法性。両方が権利者に有利な判断でも、その条件を外して音楽AI全体へ当てはめることはできない。

188本の動画と、競合する検索サービス

日本の判断で重要なのは、声を使う目的である。裁判所は保護が及ぶ条件を、その声の商業的な訴求力を専ら利用する目的がある場合とした。声が似ているだけで、すべての利用が侵害になるという判断ではない。利用者側にその目的があったことを示す必要がある。

問題のアカウントでは、津田が『呪術廻戦』で演じる七海建人に似た画像も使われていた。CMUは、この点が利用目的を示すものと見ている。ただし、動画は既に削除されていたため、裁判所はTikTokに削除を命じる差し止めを認めなかった。声の保護についての判断と、実際に命令が出たかどうかは区別が要る。

米国の争点は、Thomson Reuters傘下の法律情報サービスWestlawが作成した、判例の要点をまとめる文章だった。RossはこれをAI学習に利用し、Westlawと競合する法律調査用の検索サービスを開発した。許諾のない複製でも著作権侵害著作権侵害ちょさくけんしんがいCopyright infringement著作権で保護される表現を、許諾や法律上の根拠なく利用して権利を侵すこと。音楽では歌詞や旋律などが問題となり、似ているという印象だけで直ちに成立するわけではない。用語集で詳しくにならない場合を認めるフェアユースフェアユースFair Use米国著作権法で、利用の目的や性質などに照らし、権利者の許諾なしでも著作物の利用が認められる場合があるという原則。AI学習への適用は争われている。用語集で詳しくが、この利用を正当化するかが問われた。

地裁に続き控訴裁も、その主張を認めなかった。米国のレコード会社や音楽出版社音楽出版おんがくしゅっぱんMusic publishing歌詞やメロディーなど楽曲の著作権を管理し、利用の許諾や収益につなげる事業。特定の録音物を扱う権利とは区別され、契約によって管理や保有の範囲が異なる。用語集で詳しくを代表する業界団体は、下級審の判断を支持する意見書を提出していた。学習元の著作物と競合し、その代わりになるAIを作る場合にもフェアユースフェアユースFair Use米国著作権法で、利用の目的や性質などに照らし、権利者の許諾なしでも著作物の利用が認められる場合があるという原則。AI学習への適用は争われている。用語集で詳しくが成り立つのか。音楽業界が注目したのは、この構図である。

広がりを決めるのは、判決の射程

ただし、業界団体の主張と裁判所が判断した範囲は同じではない。RossのAIは新たな表現を生成するものではなく、控訴裁もその違いを指摘した。CMUは、MetaやAnthropicの生成AI生成AIせいせいエーアイGenerative AI学習したデータのパターンをもとに、音声や画像、文章などを生成する技術の総称。音楽では作曲、歌声、演奏など、使われる工程によって役割が異なる。用語集で詳しくを扱った別の事件では、地裁がフェアユースフェアユースFair Use米国著作権法で、利用の目的や性質などに照らし、権利者の許諾なしでも著作物の利用が認められる場合があるという原則。AI学習への適用は争われている。用語集で詳しくの抗弁を認めた判断も紹介している。AI学習の適法性が一方向に定まったわけではない。

この時点から先の1〜3年に注目されるのは、学習元とAIサービスの関係が、個別の訴訟でどう説明されるかだ。競合や代替という論点は、SunoやUdioなどと音楽業界の争いでも持ち出されると見られる。一方、AI企業側には、生成AI生成AIせいせいエーアイGenerative AI学習したデータのパターンをもとに、音声や画像、文章などを生成する技術の総称。音楽では作曲、歌声、演奏など、使われる工程によって役割が異なる。用語集で詳しくとRossの仕組みは異なると反論する余地が残る。

声についても、既存のパブリシティ権パブリシティ権Right of publicity氏名や肖像などが持つ顧客を引きつける力の商業利用に関わる権利。写真の著作権とは別の論点であり、保護の仕組みや範囲は国や地域によって異なる。用語集で詳しくを使う道と、声や容姿のデジタルレプリカデジタルレプリカDigital replica個人の声や姿をデジタル技術で再現したもの。この記事の法案では、本人と混同される明白な可能性のあるリアルな模倣が保護の対象になる。用語集で詳しくに特化した権利を設ける道が並行している。CMUによれば、演者団体が専用の権利を求める国もある。今回の日本の判断は既存の権利が働く可能性を示すが、国をまたいで同じ保護が得られることまでは意味しない。

日本から見る、声と作品の距離

日本から見ると、海外のAI訴訟だけを追う図式では捉えにくい変化だ。国内では、演者の声そのものの商業的な魅力が保護の対象となり得ることが示された。対して米国の事件は、学習に使われた文章の著作権著作権ちょさくけんCopyright楽曲や歌詞などの創作的な表現を保護する権利。出典は楽曲・歌詞・録音の保護と声のブランドを守る試みを区別し、商標を追加の手段として位置づけている。用語集で詳しくをめぐるものだ。声の持ち主と学習元の権利者では、争う根拠も、示すべき事実も違う。

CMUは、英国にはパブリシティ権パブリシティ権Right of publicity氏名や肖像などが持つ顧客を引きつける力の商業利用に関わる権利。写真の著作権とは別の論点であり、保護の仕組みや範囲は国や地域によって異なる。用語集で詳しくや人格権に相当する概念が存在しないとも説明する。日本の判断が、そのまま他国で使えるわけではない。音楽家にとって見えてくるのは、「自分に似た声が使われること」と「自分の作品が学習されること」を別々に捉える必要のある法的状況だ。AIという共通の技術の下で、保護の入口は分かれている。

この記事は、2026年10月に、当時(2026年10月1日(木))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。

EVIDENCE出典

  1. 二次CMU(Complete Music Update)2026-10-02

    Japanese court says voice is protected by publicity rights; US appeals court says AI training is not fair usecompletemusicupdate.com ↗

    “because the AI landscape is changing rapidly, I note for readers that only non-generative AI is before me today”

    AIを取り巻く状況は急速に変化しているため、今回私が審理しているのは非生成AIだけであると、読者のために付記する。

    確認日 2026-10-18