1–3 YEARS · シーンと言説の潮流AI生成音楽著作権の再発明
聴けることと、取り出せること
Suno訴訟で追加された、音源取得経路という争点
AIに録音を学習させることと、その録音をどう入手したか。米国のSuno訴訟で、二つの問いが並び始めた。2026年8月、裁判所はYouTubeの技術的保護を回避したとする請求の追加を認めた。ただし、違法性を認定したわけではない。学習の目的だけでなく、素材を取得する手順も問われている。

学習の前に、取得の手順がある
AIが録音を学習に使えるか。その手前に、録音をどのように手に入れたかという問いがある。2026年8月27日時点のSuno訴訟では、この二つを分けて見る必要が生じていた。生成された曲の似方だけでは捉えられない、素材の取得経路という争点である。
Music Business Worldwideによると、米マサチューセッツ地区連邦地裁は8月18日、Universal Music GroupとSony Music Entertainmentに、YouTubeの技術的保護を回避したとする請求の追加を認めた。両社は8月25日に修正訴状を提出。根拠は、米デジタルミレニアム著作権著作権ちょさくけんCopyright楽曲や歌詞などの創作的な表現を保護する権利。出典は楽曲・歌詞・録音の保護と声のブランドを守る試みを区別し、商標を追加の手段として位置づけている。用語集で詳しく法、DMCADMCAディーエムシーエーDigital Millennium Copyright Act米国のデジタル著作権法。ネット上の侵害に対する削除通知や、一定の条件を満たすサービス提供者の責任制限を定め、本件の通知制度の背景となる。用語集で詳しくの第1201条である。
レーベル側は、SunoがYouTubeから音声を取り出す「ストリームリッピングストリームリッピングStream ripping配信サービス上の音声や映像を抽出し、ファイルとして保存すること。著作権侵害や技術的保護措置の回避に当たるかは、取得方法や適用法などによって判断される。用語集で詳しく」によって学習データ学習データがくしゅうデータTraining DataAIがパターンや特徴を学ぶために使うデータ。音楽では楽曲や音声などが対象になり得るが、個別サービスの収集内容や利用条件は、開示資料などによる確認が必要となる。用語集で詳しくを得たと主張する。一方、裁判所が認めたのは、この請求を訴訟で扱うことだ。保護回避が実際に成立したとの判断ではない。兆しは結論ではなく、審理される問いが増えたことにある。
公開された音源と、保護された経路
争点の中心は、YouTubeの「ローリング・サイファーサイファーCypher複数の参加者がラップなどを持ち寄り、互いの表現に応じながらつなぐ場や形式。勝敗を決めるバトルとは異なり、交流や技術の共有にも重心がある。用語集で詳しく」という仕組みだ。レーベル側は、これが音声などの実体ファイルのURLを隠す暗号化措置であり、SunoがYT-DLやYT-DLPというツールで回避したと訴える。裁判所の命令によれば、Sunoは2025年5月、これらのツールを使ってYouTubeから音声ファイルをダウンロードしたとレーベル側に伝えていた。
ただし、ダウンロードした事実と、法律上の保護回避が成立することは同じではない。Suno側は、DMCADMCAディーエムシーエーDigital Millennium Copyright Act米国のデジタル著作権法。ネット上の侵害に対する削除通知や、一定の条件を満たすサービス提供者の責任制限を定め、本件の通知制度の背景となる。用語集で詳しくが禁じるのは作品へのアクセス制御の回避であり、コピー制御の回避ではないと反論している。YouTubeの動画は誰でも視聴できる、というのがその論拠だ。裁判官も、ツールが認められた手段でコンテンツに到達するのか、保護措置を迂回するのかは、まだ明確でないとした。
同じ8月18日、裁判所は別の拡張には歯止めをかけた。既存の560録音に6万1,026録音を追加する申し立てを、複雑化と遅延を理由に退けたのである。追加分の法定損害賠償法定損害賠償ほうていそんがいばいしょうStatutory damages実際の損害額の立証とは別に、法律で定めた枠組みに基づいて求める損害賠償。訴状に示された可能額は、裁判所が認めた支払額や和解金とは異なる。用語集で詳しくは理論上の上限で90億ドル超、既存分は約8,400万ドルと報じられた。ただし、いずれも支払額の認定ではない。裁判官は、無許諾のAI学習がフェアユースフェアユースFair Use米国著作権法で、利用の目的や性質などに照らし、権利者の許諾なしでも著作物の利用が認められる場合があるという原則。AI学習への適用は争われている。用語集で詳しくに当たるかという中心争点を、適時に判断することを重視した。
使う権利と、入手する手順の二層化
なぜ取得経路が浮上したのか。少なくとも今回の請求には、Suno自身が説明したダウンロード方法という具体的な足場がある。学習を抽象的に論じるだけでなく、どの仕組みを、どのツールで通過したのかを検証する段階に入った。裁判所も最終判断には、技術の働きについて十分な事実の記録が必要だとしている。
この時点から先の1〜3年に注目されるのは、学習目的の適法性と、取得手順の適法性が、別々に争われる可能性である。SunoがフェアユースフェアユースFair Use米国著作権法で、利用の目的や性質などに照らし、権利者の許諾なしでも著作物の利用が認められる場合があるという原則。AI学習への適用は争われている。用語集で詳しくを主張する一方で、技術的保護の回避も審理の対象になったことは、その二層構造を示す。どちらかの結論が、もう一方を自動的に決めるとまでは、この記事からは言えない。
生成物の扱いも切り分けられている。修正訴状でレーベル側は、証拠開示証拠開示しょうこかいじDiscovery訴訟に関係する資料や情報を当事者間で取得・提示する手続き。米国の民事訴訟では、相手方が保有する記録や証言を得て、争点を検証する重要な過程となる。用語集で詳しくによって対象録音の一部を直接・間接に再現すると判明しない限り、Sunoの出力自体が侵害だとは現段階で主張していない。問われているのは、ひとまず学習と取得の工程だ。この区別が広がれば、生成曲の聞こえ方だけでなく、素材の出所や取得方法を説明する記録にも関心が向く可能性がある。
日本から見る、同じ画面の手前
日本からも同じYouTubeの音源を聴ける。しかし、画面上で再生できることと、米国法の下でファイルを取得し学習に使えることは、別の問いとして扱われている。今回の記事は米国の訴訟を報じたものであり、日本での適法性や制度上の違いを判断する材料までは示していない。米国で請求が認められたことを、日本での違法性に直結させることもできない。
それでも、日本語でこの動きを読む意味はある。AI学習を認めるか否かという大きな対立の内側で、目的、取得手順、生成物が分けて問われ始めているからだ。AI音楽をめぐる議論の輪郭は、賛否だけでなく、制作工程のどこを見ているかによっても変わる。今回の訴訟が照らしたのは、曲になる前の、音源が集められる場所である。
この記事は、2026年10月に、当時(2026年8月27日(木))の出典をもとに書いた振り返りです。数字や状況はその後変わっている可能性があります。
EVIDENCE出典
- 二次Music Business Worldwide2026-08-28
“The ultimate determination of whether Suno circumvented a technological measure that effectively controls access to plaintiffs’ sound recordings will require a developed factual record on how the technological measure and circumvention tools work.”
Sunoが原告らの録音へのアクセスを有効に制御する技術的措置を回避したかどうかを最終的に判断するには、その措置と回避ツールがどう機能するかについて、十分な事実の記録が必要となる。
確認日 2026-10-18


